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2006-10-30 00:00
我が国のテロ資金対策は万全か
村上正泰
日本国際フォーラム主任研究員
北朝鮮の核・ミサイル実験を受けて我が国はさまざまな制裁措置を講じているが、9月19日以降、北朝鮮のミサイル又は大量破壊兵器計画に関連する者として15団体・1個人に対する金融制裁を実施している。具体的には、外為法に基づき、対象となる個人・団体向けの支払や資本取引を許可制とし、事実上の資産凍結を行っているのであるが、同様の制裁措置は、これまでもテロ資金対策の一環として、タリバーン関係者やテロリスト等に対しても実施してきている。したがって、我が国においては金融制裁措置に関する法律上の体制が十分整備されていると考えられているかもしれないが、かつて財務省でこの仕事を担当した経験から、私は、我が国の金融制裁措置の仕組みに大きな問題点を感じている。
先に「事実上の資産凍結」と表現したが、これは、あくまで法律の構成上は許可制としているだけであって、行政判断としてそれらの取引を不許可処分とすることにより、実質的に資産が凍結されるためである。これは輸出入の禁止についても同様なのであるが、何故に資産凍結を法律上明示的に位置づけないのであろうか。実質的に資産凍結されているのだからいいではないかと言えるかもしれないが、危機管理上の措置としては、あまりに法律上の位置づけが曖昧なのではないだろうか。諸外国においては凍結した資産を没収することさえあるのに比べると、何とも腰が引けている。
そもそも外為法のみに頼っている点にも問題がある。対外的な制裁措置を考える上では外為法で十分かもしれないが、我が国においては居住者の国内金融資産を凍結するような制度がない。テロリスト等が我が国に居住していた場合、彼らへの資金提供を罰する法律はあるが、彼らの金融資産を一切凍結する制度までは存在しないのである。国際的にテロ資金対策が進められているが、たとえテロリスト等の制裁対象者が国内にいたとしても、彼らの活動が国内で完結している限りは外国には迷惑をかけていないという理屈に立って、我が国は外為法による措置のみで済ませている。本当にそう言えるのだろうか。今やテロの脅威もグローバル化しており、他人事で済ませられる話ではない。これで果たして我が国の危機管理として万全と言えるのであろうか。
こうした問題は、財産権の侵害などに気を取られるあまり、危機管理に正面から取り組めていない証左である。ここにも戦後日本の悪弊が見て取れると言っても過言ではないであろう。
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