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2013-11-19 00:00
(連載)ローラン・ファビウス仏外相論(2)
緒方 林太郎
前衆議院議員
しかし、私の経験からすると、こういう時、普通はフランスは自国の経済的利益を確保する方に動くことが多いのです。フランス財界は、制裁後に縮小してしまったイランでのビジネスに復帰したくて仕方ないというのが本音です。制裁後、自ずとイラン市場でのシェアがどんどん下がっています。特に自動車市場では、どんどん中韓が出てきて席巻し、プジョーとルノーは押されてしまっています。かつては、アフマディネジャード大統領がプジョー504に乗っていたくらい、食い込んでいました。制裁緩和に対する国内の要望は強いはずです。対外貿易省には「イラン室」を作って、ゴーサインが出たらすぐにでもビジネス拡大をするために準備をしているそうです。また、余談になりますが、サッダーム・フセイン時代のイラクではフランスは儲けていました。まず、対イラク制裁の時期、国連は1996年に「オイル・フォー・フード」という制度を導入しました。これは何かと言うと、イラクの石油を国連管理下で輸出して、その代金をこれまた国連が管理して、イラク側が出すショッピング・リストを逐一国連の制裁委員会で承認して、石油代金から払うということです。つまりは石油を輸出しても良いし、それで外国からモノを買っても良いけど、すべて国連の管理下でやるということです。
そろりそろりとスタートするのが日本です。結局、最後の最後までオイル・フォー・フードに大きく日本が関与し(儲け)たということはなかったように思います。しかし、フランスは違いました。まず、石油輸出によって得たお金を管理する銀行がBNP(パリ国立銀行)のニューヨーク支店でした。これはおいしい話だったはずです。イラクの石油代金ですから数千億円のお金の管理を任されることになるわけです。手数料、運用利益だけでも相当にBNPは儲かったはずです。イラク制裁の制度を運用するための銀行がアメリカやイギリス資本ではやはりまずいという判断があったのでしょう。そこに「じゃあ、私が」ということで如何にも中立的な顔をしながらフランスが入ってきたわけです。そういうスキマ産業(スキマというには膨大なビジネスですが)にコソッと入って大儲けするのはいかにもフランスらしいです。
しかも、フランス政府自身、このオイル・フォー・フードを「フランス企業に儲けさせるチャンス」だと思ったのです。ここが「制裁で儲けるなんて不謹慎な」と思いがちな日本との違いでしょう。フランス外務省は当初から企業向けに制度を詳細に説明して、「こうやればイラクでビジネスが上手く行きますよ」ということを懇切丁寧に説明したようなのです。そもそも、制裁というのは規制の最たるものです。規制のあるところには常に市場の歪みに伴うレント(不労所得)が生じます。そのレントをどう配分するかというところで一番良いとこ取りをしようとしたのです。エルフ(Elf)とか、ブイグ(Bouygues)等のフランス企業は制裁下のイラクでかなりのプレゼンスを確保していました。
それと比較すると、今回のファビウス外相の強硬姿勢、どういう経緯なのか興味深いです。イランと裏取引をしている節はありません。イランの国内では、ファビウス外相を批判する報道一色です。Facebookのファビウス外相ページでは、イランからの「Shame on You, Fabius.(恥を知れ、ファビウス)」的な書き込みが満載です(ペルシャ語で書かれているものが多いので、よく分からないものも多いですが)。結構、ガチンコなのではないかと思わせます。そうやって見ていくと、アラク重水炉の開発進展(とプルトニウム抽出)、ウラン濃縮、いずれも堅いポジションを貫くフランスとイランの一致点は見出し難そうです。11月20日に再開される協議は難航するだろうなと思います。(おわり)
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