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2013-10-16 00:00
デフレ脱却へ自信と高揚感の安倍演説
杉浦 正章
政治評論家
順調なアベノミクスという追い風を受けて、首相・安倍晋三の所信表明演説は、歴代首相の中でも際だって高揚感のあふれるものとなった。経済で意気消沈してきた国民を鼓舞し、与党を督励する。とりわけ今国会を「成長戦略実行国会」と位置づけ、経済最優先の姿勢を示した形となった。近隣諸国との関係改善への思惑もあってか、外交・安保への右寄り姿勢は極力押さえ込んだ。明らかに長期政権を意識した姿勢だ。国政選挙の圧勝によるねじれ解消と高支持率を背景に、まさに「デフレ脱却の鬼」(官房長官・菅義偉)と化した姿がそこにある。おやっと思ったのは「石垣島で漁船を守る海上保安官。宮古島で南西の空をにらみ、ジブチで灼熱(しゃくねつ)の下海賊対処行動に当たる自衛官。彼らは、私の誇りです」と述べた点だ。安部の発言からは「尖閣諸島」の言葉が消えたのだ。中国と対峙する一番ホットな水域への言及がなかったのだ。注意して聞いていると、外交・安保には言及しているが、「中国」「韓国」「北朝鮮」の言葉が一切出てこない。何と「米国」すらない。来年の通常国会に先送りした集団的自衛権の行使容認問題への言及もなく、与党内ですら公明党とあつれきのある「特定機密保護法案」にも触れていない。成長戦略国会だから外交・安保に深くは触れないのは分かるが、触れないついでか、大企業優遇として国会の焦点の一つとなる復興法人税の撤廃まで言及せずだ。
政府筋によると日中、日韓に触れなかったのは、どうもまだ水面下での関係改善に向けた接触が続いており、こうした動きに影響を与えてはならないとの配慮があったようだ。復興法人税廃止への言及がないのも、年末に先送りしたものをあえて取り上げて、批判を増幅させる必要は無いとの判断があったようだ。その反面で安倍演説は、アベノミクスの順調な滑り出しと成長戦略を意識して、アジテーションともいえるほど国民への鼓舞激励を行った。「日本が力強く成長する姿を、世界に発信していこうではありませんか」「日本人は、長引くデフレの中で、萎縮してしまった。この呪縛から日本を解き放ち、再び、起業・創業の精神に満ちあふれた国を取り戻す」「いよいよ、日本の新しい成長の幕開け」とボルテージは上がる一方だった。確かに、民主党政権であえぎにあえいだ経済は、アベノミクスで上昇に転ずるかに見え、デフレ脱却へ向けてここで手を引くわけにはいかない安倍の立ち位置を鮮明にさせたのである。政府筋も「国民に問題の所在を明らかにするために絞りに絞った」と述べている。摩擦要因をすべて取り上げて、“敵”を作りすぎることを避けたものとみられる。安倍にしてみれば、53日という短期間で重要法案の処理にかからなければならず、摩擦要因は極力減らしたいという基本戦略があるのだろう。
重要法案は4本ある。成長戦略絡みの法案が、企業の事業再編や研究開発など設備投資を促す「産業競争力強化法案」と、一部地域に限った規制緩和を進め企業の新規参入を促す「国家戦略特区関連法案」の2本だ。外交・安保関係は、外交・安保の司令塔となる「国家安全保障会議創設法案」と機密を漏らした公務員を厳罰に処する「特定機密保護法案」の2本だ。このうち「特区法案」は野党が「首切り法案」として追及の構えである。また「機密保護法案」は公明党が知る権利と報道の自由の挿入を主張しているが、結局公明党に「手柄」をたてさせて、与党はまとまるものとみられる。いずれも与野党対決法案となるが、より重要な問題が安倍政権が「検討する」ことになっている、「復興法人税の一年前倒し廃止」問題である。安倍があえて言及しなかったのは、自民党内ですら反対論があり、焦点となることが分かっているからだ。野党は復興所得増税はそのままにして、企業だけ優遇することを突こうとしている。しかし安倍は、これに先立って民放テレビで「19兆円の復興予算を25兆円にしたのは私であり、これを減額することは一切ない」と言明した。減税の財源についても「安倍政権で税収が増えており、これを財源に使う」と述べた。その背景には企業減税で給料を引き上げ、景気を好転させるという景気循環論があり、アベノミクスが成功の兆しを見せている以上、野党の追及もすれ違いに終わる公算が強い。
こうした中で、経団連会長・米倉弘昌は11日の記者会見で「大半の企業は来年3月の決算期末には、景況感が十分上がってくると思う。経団連としては、経済の好循環を実現するため、業績の改善を賃上げにつなげていくよう会員企業に伝えていきたい」と注目すべき発言をした。安倍がテレビで「経団連史上初めてのこと」ともろ手を挙げて歓迎したが、今や経団連は連合のお株を奪ってしまったような形で、政権に協力姿勢だ。汚染水問題も安倍が「漁業者の方々が、事実と異なる風評に悩んでいる現実がある。しかし、食品や水への影響は、基準値を大幅に下回っている。これが、事実だ」と述べているとおり、一部マスコミの過剰報道に野党が扇動されても、追及は長続きしまい。こうして野党の追及も決め手がなく、衆参のねじれが解消されて初めての国会は、結局は自民党ペースで事は運ぶだろう。国対委員長・佐藤勉は「丁寧に国会運営をするが、結果を早く出したいのが本音」と述べている。ここで思い起こすのは、やはり安倍政権で、与党が多数であった2007年の通常国会だ。何と強行採決を17回も繰り返して新記録を作った。最後は衣を脱ぎ捨てて、鎧丸出しで突破を図る公算が大きい。終わりは脱兎の如くであろう。一強自民党に野党は民主党を始め対抗するすべが見当たらない。
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