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2006-10-21 00:00
安倍総理訪中の成果に思う
田島 高志
東洋英和女学院大学大学院客員教授
今回の安倍総理の訪中は、現状で望み得る最大の立派な成果を挙げ、両国政府及び大方の国民が共に安堵と満足感をもって高い評価を与えたと感じられる。就任直後の安倍総理の訪中実現と両国首脳会談のために周到な準備を行なった日中両国の関係者に深い敬意を表したい。
私は、たまたま総理訪中直後に北京と上海を訪問する機会があり、日中関係に直接間接に関与している中国の人々と意見交換を行なう場があった。そこで得た印象の一つは、中国側も安倍総理をこの時期に迎えるべきか否かについて政府部内のみならず民間有識者の意見も徴しつつ事前に相当慎重に検討した由である。かつ代表的有識者を日本に内々派遣して安倍総理の実際の人柄、信条、性格、行動などについての情報収集と調査分析を入念に行なったようである。安倍総理はご自身の覚悟と決意をもってこの訪中に臨まれたと拝察するが、胡錦濤主席としても、部内に時期尚早との意見もある中を相当な覚悟と準備を行った結果、安倍総理を歓迎すべしと決断したようである。両国首脳ともに、とげが刺さったような両国関係を改善の方向に向けることは、それぞれの外交上も内政上も焦眉の急であると認識していたものと考える。
私は、今回の「共同プレス発表」の中で最も重要な部分は、両国関係は単なる二国間関係ではなく、世界的な共通の戦略的利益に立脚した互恵関係に次元を高めるべきであるという趣旨を謳った点にあると思う。これはアジアの二大国として基本的な当然の責務であろう。もう一つ重要な点は、日本が戦後60年余一貫して平和国家として歩んできたこと、今後もその歩みを続けることを、中国側が積極的に評価したと記された点である。これは、初めて中国側が公式に表明した見解であり、歴史問題とも関連して大きな意味のあることである。
小泉総理時代の最も大きな障害であった靖国問題は、会談では取り上げられたものの、プレス発表では「両国関係の発展に障害を与える問題」との間接的表現に留まり、両首脳が今回いかに大局的な立場から冷静に未来志向の態度で臨んだかが表わされた。さらに、安倍総理が会談で、中国の愛国主義教育に関連し、日本関連の教育や歴史展示物についての適切な対処を要請したのは、至極当然で重要なことである。これに対応して、日本でも中高校での歴史教育を明治大正時代で終わらせずに、昭和時代の日中戦争を含む第二次大戦の歴史を正確に教えるべきであろう。両国の歴史教育がともに改善されなければ、現在のように中国では戦争日本しか知らず、日本では戦後の平和日本しか知らない若者ばかりとなり、両国の歴史についての知識と理解のギャップが両国間の相互理解を欠き、偏った民族主義を生む要因になり続けることになろう。
日中関係の改善は始まった。中国の有識者の中には、今回の安倍総理訪中の成果を2回目の正常化であると評した人がいた。問題はこれから如何に具体的な協力関係を築いて行くかである。直後に起った北朝鮮の核実験に対処し直ちに協力行動がとれたのも、安倍総理訪中があったからこそであろう。両国には引き続き多方面の二国間及び地域的世界的な課題に現実的な協力関係を積み上げて行くことが求められている。
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