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2013-09-26 00:00
機密保全は安全保障のイロハのイだ
杉浦 正章
政治評論家
例えばNSC(国家安全保障会議)を運営する米・英・仏の三国が、その機密漏洩の厳罰があるが故に報道の自由が制約されて、民主主義が危機に瀕しているかということだ。三国とも全く健全なる民主主義国家であり、報道の自由は十分保障されている。共産党や朝日新聞が反対しているNSC設置法案に伴う特定秘密保全法案は、遅きに失したというべきものであろう。罰則強化による情報管理は国家にとって当然の責務であり、中国、北朝鮮、テロリストなどの情報が欠如した結果、何万人、何十万人の犠牲者を出してからでは、手遅れなのである。米国を始め主要国でとかく言われているのが、「日本に機密情報は教えられない。漏れる」ということだ。その例証を挙げれば日本の取材・報道史上の最大の汚点の一つである西山事件であろう。同事件は第3次佐藤内閣当時、米ニクソン政権との沖縄返還協定に際しての密約を、当時毎日新聞社政治部の西山太吉が非合法に取得して、日本社会党議員に漏洩した事件である。その取材方法は、外務省高官の秘書と情を通じ、「肉体関係があったため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて、秘密文書を持ち出させた」(最高裁判決)という手口であった。結局最高裁で有罪が確立した。
こうした教唆・そそのかしの罪は、刑法61条で罰せられる。今回の秘密保全法案は国家公務員が「特別秘密」を漏らした場合には「10年以下の懲役」とする厳罰化が柱となっているが、取材する側も教唆犯の思想が取り入れられて同様の厳罰があり得る。マスコミなど取材する側はこの点を懸念する論調が多く、読売、産経などは報道の自由を担保した上での実施論だ。朝日は現行法規の厳格な運用で対処すべきという社説を掲載している。政党では共産党が「秘密保全法は軍事体制への流れ」(国対委員長・穀田恵二)と真っ向から反対の構えだ。連立内部では公明党も慎重姿勢だ。これに対して政府・自民党は、西山型の教唆・そそのかし取材のケースなどは厳罰を適用するものの、法案に「報道の自由を保障する規定を明記する」ことにより通常取材には影響が生じないように配慮する方針だ。官房長官・菅義偉も報道・取材の自由は「十分に尊重する」としている。幹事長・石破茂も「法案は報道の自由に配慮する。基本的人権を侵害するものにはならない」と述べている。
安倍政権が「特別秘密」にこだわるのは、これがNSC設置法案にとって必要不可欠であるからだ。外交・安保の司令塔となるNSCは、米国では1947年に設置され、英国では2010年にキャメロン政権が設置している。いずれも有事に不可欠の存在として機能している。安倍としては「防衛」「外交」「諜報活動の防止」「テロ活動の防止」の4分野に限ってその機密漏洩に厳罰をかけることにより、米、英、仏などのNSCと連携を取りやすくしたい思惑がある。米国と同じ懲役10年の最高刑を設けるのもそのためだ。この外国からの機密情報に加えて、省庁の情報もNSCに届きやすくする必要がある。ただでさえ外務省や防衛省は情報管理が厳しく、首相官邸に対してすら情報を出し渋る傾向がある。下部組織が機密漏洩を懸念しているようでは、NSCは全く機能しない屋上屋を重ねるものにならざるを得ない。
従って、重大な国家機密の漏洩に対する厳罰化は必要不可欠なのである。これまでのように最高刑が懲役1年では緩みが生じることは避けられまい。国内外の情報をNSCがまず入手できる体制を確立するためには、NSCの情報管理が厳しいという証左を内外に向けて打ち立てる必要があるのだ。そしてこの機密漏洩の厳罰化は普通の国家が普通のこととして行っているものであり、安倍政権が突出しているケースではない。共産党は真っ向から反対するが、自らの過去を顧みるがいい。ソ連を初めとする他国の共産主義者と連携を取って情報を流出させ、一時は社会主義革命を起こそうと狙ったではないか。今は猫をかぶっているが、そのような過去のある政党が、「軍事体制への流れ」を指摘する資格はない。そもそも戦後70年近くなって、日本の民主主義は定着しており、選挙を経て成立した政権が行おうとしていることである。もちろん報道の自由は民主主義の根幹であり、厳しく監視しなければならない。しかし緊迫する極東情勢や世界中にテロが横行する時代である。情報の掌握度によって国の安全保障の強弱が確定することを肝に銘ずるときだ。
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