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2013-09-18 00:00
(連載)イラクの安定なくしてシリアの平和なし(1)
河村 洋
外交評論家
中東全域の不安定化、特にシリア情勢について語る際に、2011年12月の米軍撤退後のイラクを忘れてはならない。オバマ政権はイラクとの健全なパートナーシップを築なかったので、当地でのアル・カイダの復活と宗派間抗争の激化を招いた。さらにイラクの治安悪化がシリアにも悪影響を及ぼしている。イラクを拠点にしたスンニ系の過激派が内戦に加わり、イランがイラクの領空を通過してアサド政権を支援している。さらにイラクでの経験によってR2P(保護する責任)に基づくシリア介入に心理的な歯止めがかかっている。よって米軍撤退後のイラクの治安とともに、それがシリア、イラン、サウジアラビアといった近隣諸国に及ぼしている波及効果を評定する必要があり、以下のそれを述べたい。
まず現在のイラクの概観を理解しなければならない。アメリカと世界のほとんどの一般市民はイラクでの戦争は終わったものだと認識しているが、ジョン・マケイン上院議員は2011年12月以後もイラクへの関与を深めるべきだと主張している。イラクでの反乱分子掃討で成果を挙げた増派計画の立案にもかかわったジャック・キーン退役陸軍大将とアメリカン・エンタープライズ研究所のフレデリック・ケーガン重大脅威プロジェクト部長は、本年3月19日にAEIが主催した公開討論会でマケイン上院議員と共にイラクの治安情勢を評定し、当地の不安定化の戦略的な意味合いを模索した。イラク戦争と反乱分子掃討で重大な役割を果たしたこの三人のパネリストは、イラク政策は党派抗争というコップの中の嵐を超えたものであるべきだと強調する。一般国民の間では2011年12月の撤退によってイラクでの戦争は終わったと見られているが、宗派間抗争は依然として続いている。こうした事態に鑑みて、三者ともは「政策形成者達はイラクからの教訓を学び取るとともに、アメリカの役割を明確にしなければならない」と主張する。
教訓を挙げると、現在のイラクの混乱はオバマ政権下では両国の安全保障政策の協調ができていないことに起因している。2008年にブッシュ政権がイラクと安全保障協定に調印した際に、マリキ政権は2万人の米軍駐留を認める用意ができていた。しかしマケイン氏がマーティン・デンプシー陸軍大将の発言を引用したようにオバマ政権は兵員数を3千人まで「ごっそりと削った」ので、それほど少数の兵力では治安維持には役立たないということでイラク側から米軍の継続駐留を拒否されてしまった。問題は米軍の全面撤退だけではない。『ロサンゼルス・タイムズ』紙は3月28日付けで「イラクの部族長と湾岸地域の米軍の連絡が行き届いていないために、宗派間抗争が激化してイランの影響力が浸透するようになっている」と報じている。アメリカが反乱分子掃討への持続的な意志を示せなかったので、敵が勢いづいてしまった。敵への諜報活動を上手くやることもイラクから学ぶべき教訓である。サダムの核兵器に関して誤報があったことで積極的な介入に対する心理的な躊躇が生じ、一般国民の間で厭戦気運が広まるようになっている。
アメリカが果たすべき役割について、キーン氏は「ソ連崩壊やサダム・フセインによるクウェート侵攻といった過去の場合とは異なり、オバマ政権がアラブの春に対応できていないのでアメリカの指導力を低下させている」と指摘した。破滅的なことに、イラクはアル・カイダの根拠地となり、イランがシリアに化学兵器を供給する経路になっている。こうした兵器はアサド政権からヒズボラのような過激派に渡りかねない。イラクの波及効果がこれほど大きいという事情から、アメリカにとってどこまでバグダッドが信頼できる同盟国であるかを見極める必要がある。(つづく)
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