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2006-10-18 00:00
杉本信行氏の中国論を読んで
小笠原高雪
山梨学院大学教授
今年の夏に読んだ書物の一つに杉本信行『大地の咆哮』がある。著者は上海総領事を務めた外交官であり、自らの経験と調査にもとづく現代中国論を展開している。杉本氏は惜しくも不帰の人となられたけれども、本書のような示唆に富んだ書物を残してくれたことに対し、私たちは感謝するべきであろう。
現代中国を論じた書物はきわめて多く、そこに示されている中国像もさまざまである。思い切って整理するなら、一方には「大国化する中国」というイメージが存在するが、それは中国を「機会」と捉える見方と「脅威」と捉える見方に分裂している。また、他方には「内憂を抱える中国」というイメージが存在するが、その実情や意味に対する評価は必ずしも一様ではない。
本書において強調されているのは、中国が「内憂」を抱えた国であるということであり、しかもそれがきわめて重大であるということである。詳細は本書を読んでいただくほかにないが、しばしば指摘される経済格差が身分格差や教育格差と関連しており、国内矛盾が臨界点に向かって増大していることが豊富なデータにもとづき説得的に述べられている。本書を読んで深刻な思いに駆られない人はいないだろう。
著者はそうした「内憂」こそは中国の対外姿勢を解く鍵であり、国際社会としてはそれに対抗意識を燃やすよりも、中国の「内憂」の解消もしくは緩和に役立つような助言や援助を与えるほうが得策であると主張する。そして、その背後には、体制の崩壊よりは存続のほうが周辺地域にとっての被害は少なく、体制の存続は国際社会の助言や援助をつうじた改革によって可能である、という判断が存在しているようである。
私は本書をつうじて多くのことを学んだが、同時にいくつかの疑問も抱いた。たとえば、中国の軍備増強策や兵器輸出策は果たして「内憂」のみの産物なのか、さらにそうした諸活動に国際社会はどう対処すべきかについて、著者は多くを語っていない。北朝鮮という「過激派」の出現は中国に「安定勢力」の外観を与えているが、パキスタンにミサイル技術を提供するとともに、イランへの核技術供与も疑われている中国に対し、国際社会は警戒心を緩めるべきではないであろう。
また、中国の不安定化は望ましくないことであるとしても、それを国際社会の助言や援助によって避けることは真実に可能なのか、という根本的な議論もありうるだろう。私は中国の不安定化を望むものでは決してないし、それを避ける努力を国際社会は行なうべきだと考えているが、同時に、中国のような巨大で複雑な存在に対し、外部からできることには大きな限界がある、という事実も認識しておくべきであると思う。そのことは東アジアの地域協力を論ずる際にも視野に収めておく必要があろう。
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