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2013-09-17 00:00
亡国の1㍉・シーベルト神話から離脱せよ
杉浦 正章
政治評論家
見る影もなく首相官邸を追われた民主党政権が、玄関と首相執務室に二つの“不可能神話”を置き土産にした。玄関前には「賽の河原の石積み」である尖閣問題。執務室には「シジフォスの石運び」である「除染1㍉・シーベルト神話」である。その「苦役」に政治があえいでいる。尖閣はさておき、除染神話はマスコミとりわけ朝日やNHKの過剰報道で作った“風評”に乗った民主党のポピュリズムがなせる業である。自然から浴びる放射能値より低い除染をどう達成するのだろうか。できないことを永遠にやり続けるのが「シジフォスの石運び」だ。シジフォスはゼウスに巨石をコーカサスの山上に運び上げるよう命じられ、散々なる苦労の結果やっと頂上に運び上げた。そのとたん、ゼウスによってその石は麓へと転げ落ちるのだ。まさに亡国の「1㍉シーベルト」であり、首相・安倍晋三はマスコミに踊らされた二重苦、三重苦の避難者たちに1㍉・シーベルトの無意味さから説き、問題を解きほぐさなければならない。
NHKが勝ち誇ったように9月15日に「原発ゼロ」を報じた。大飯原発が定期検査で稼働をストップしたことをとらえて「再稼働は国に厳しく問われて不透明」と報じたのだ。果たして不透明か。完全なる誤報だと思う。規制委は地下に活断層がないと分かって、定期検査後の再稼働の方向を表明しているではないか。事ほど左様にNHKと朝日は、原発に関して恣意的な報道を繰り返す。これにもっとも“洗脳”されてしまったのが福島の16万人の避難者たちだ。無理もない。今にも白血病になるような報道を朝から晩まで続けられれば、筆者でも住んでいれば不気味になって逃げ出したくなる。ところが、その報道を逆手にとってポピュリズムの極致を演じたのが民主党政権であった。原発事故終息・再発防止担当相であった細野豪志は国会でマスコミにこびを売る答弁を繰り返した。当初は、首相・野田佳彦以下「年間の追加被曝線量20㍉シーベルト以上」としていたが、その後、「年間5㍉シーベルト以上」になり、ついに細野の「年間1㍉・シーベルト以下」答弁に至るのだ。1㍉・シーベルト以下がどういうことかと言えば、まさに達成不能の神話なのである。そもそも日本人が浴びている放射能は、太陽など自然に降り注ぐものが1.5シーベルトあり、これにレントゲン検査を平均すると4㍉シーベルト、食物から0.5㍉シーベルトで、合計が6㍉シーベルトを浴びているのだ。あまりにも科学に無知な細野答弁がその後一人歩きすることになる。1㍉が基準になってしまったのだ。
原子核物理学者の元文相・有馬朗人は「日本人が太陽など自然に受けているのが1.5㍉シーベルト。1年間に浴びる量が20㍉シーベルトでも低すぎると思う。過剰に防護しています。50㍉シーベルトで十分」と断言している。有馬のような学者は勇気がある方で、ほとんどの学者がそう思っているにもかかわらず、口を開かない。マスコミから干されるのがそれほど恐ろしいかと言いたい。しかし、マスコミもようやく読売が「1㍉シーベルト」に異を唱えた。12日付の社説で「1㍉シーベルト」への拘(こだわ)りを捨てたい」と題して「住民の中には、直ちに1㍉シーベルト以下にするよう拘る声が依然、少なくない。人間は宇宙や大地から放射線を浴びて生活している。病院のCT検査では、1回の被曝線量が約8㍉シーベルトになることがある。専門家は、広島と長崎の被爆者に対する追跡調査の結果、積算線量が100㍉シーベルト以下の被曝では、がんとの因果関係は認められていないと指摘する」と主張し始めたのだ。反対者は読売の購読を拒否しかねない主張であり、新聞としては相当勇気が要る。逆に朝日は13日付けの社説で「どこまで除染を進めるか、詰めた議論も必要になろう」と、読売のように数字を掲げずに逃げている。狡猾さ丸出しの社説だ。朝日は居住可能な放射線量を明示すべきだ。
さらに加えて、日本人の島国根性の偏狭さを露呈しているのが、首相・安倍晋三の国際オリンピック委員会(IOC)におけるスピーチへの批判だ。共産党や脱原発政党のスピッツが何を言っても捨てておけばいいが、民主党の元厚労相・長妻昭のNHKでの発言は問題だ。長妻は首相・安倍晋三が「コントロールできている」と発言したことを「世界に間違ったメッセージを発信してしまった。禍根を残すことになりかねない」とこき下ろしたのだ。自らの政権で事故を拡大させたことを忘れて、韓国などが風評を巻き起こす中でオリンピックを勝ち取った時の首相を批判するとは何事か。相変わらず長妻の葦の髄から天井を覗く性格は変わらない。コントロールはできているのであって、できていなければチェルノブイリのように今頃屍累々(しかばねるいるい)ではないか。東京での開催に支障が出る可能性があるというなら、証拠を示せ。示せるはずがないではないか。一方で、馬鹿丸出し発言が自民党からまで出た。二階俊博の「あれだけスピーチを練習していくんだったら、韓国、中国に対するスピーチをちょっと練習したらどうなのか」発言だ。見当違いも甚だしい、いちゃもん発言とはこのことだ。二階も総裁候補から脱落して、方向音痴になったかのようである。こうした馬鹿と阿呆の絡み合いもあって、右往左往の除染問題だが、これまで政府が行ってこなかったことがある。それは責任ある科学者を動員した福島の地元への勇気ある説得作業である。「シジフォスの神話」を繰り返す時ではない。除染基準を大幅に緩和しても帰宅可能なことを被害者に説得するキャンペーンを展開するときだ。一部マスコミの反発は織り込み済みとして、政府は責任を果たすべき時だ。
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