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2013-09-06 00:00
温室効果ガス削減目標を原発復活の梃子にせよ
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
我が国は、現在、福島第一原発事故を受けた原発稼働停止により、温室効果ガス削減目標についての国際公約が棚上げとなっている。11月にポーランドで開かれる、国連気候変動枠組み条約の第19回締約国会議(COP19)においては、新たな削減目標が提示されることが望まれるが、経済産業省と環境省の対立から難航しており、数値目標を示せない可能性が指摘されている。報道によれば、経産省と環境省が共同で事務局を務める、中央環境審議会と産業構造審議会の専門合同会合が、温室効果ガス削減の数値目標をめぐって対立し、暗礁に乗り上げているとのことである。経産省は、将来の電源構成における原発の比率が決定していないので数値目標の議論は進められないと主張している。これに対して、環境省は、概算であっても原発の比率を仮定すれば数値目標を決めることはできると主張し、折り合いがつかずにいるようである。
確かに、経産省の主張は理に適っている。しかし、一方で、COP19において日本が数値目標を示せないとなると、面目を失うことになる。我が国が温室効果ガス削減の数値目標を棚上げしているのは、原発への消極姿勢が最大の原因である。その一方で、我が国は、国策として原発輸出を推進するというのであるから、全く理屈が通っておらず、国際的非難を浴びても仕方がない。そうなると、我が国が提唱している二国間クレジット制度(JCM)も、温室効果ガス削減の手段として認められない可能性が高まる。さらに、今後、温室効果ガス削減の国際的約束にコミットしないという方針に転換するのであれば話は別だが、そうでなければ、日本は削減目標という交渉の最重要カードを持たないことになり、温室効果ガス削減に関する国際交渉において大いに不利な立場に立たされるという、実質的な不利益がある。そこで、経産省の言い分に一理あることは認めるが、逆に、温室効果ガス削減の数値目標を先に決め、それを梃子に原発の再稼働を推進する方が国益に資するのではないか。原発の復活が無ければ、燃料費の圧迫を受けて、アベノミクスも画餅に帰する可能性がある。米国発のシェール革命の恩恵を受けることができるかもしれないと言っても、まだ先の話である。
それでは、数値目標はどの程度に設定すべきか。もちろん、鳩山元首相が2009年9月に示した、2020年までに1990年比で25%削減というのは論外である。これは原発の比率を50%以上にすることを前提としており、エネルギ安全保障の大原則である、エネルギーのベストミックスという観点からも問題がある。2009年6月に当時の麻生政権が示した、2020年までに2005年比で15%削減(90年比では8%削減)というのが一つの基準になるのではないかと思う。これは、一度国際公約として提示した数字であるという意味もある。他の主要国の数値目標を見ると、いずれも2020年までに、米国は2005年比で約17%削減、カナダも2005年比で17%削減、オーストラリアは2000年比で5~15%削減、などとなっており、麻生目標はこれらに比して遜色がなく、我が国の、温室効果ガス削減の国際的取り組みのプレイヤーとしての立場を大きく弱めることはない。なお、EUは、1990年比で20%削減と言っているが、これは京都議定書の時と同じく、数字のマジックを利用した、一種の誇大広告である。欧州では、ちょうど1990年ごろを境に、石炭から天然ガスへのエネルギーの近代化が進み、経済状態が悪く温室効果排出量の少ない東欧諸国を加盟させ、それらの分が努力無しで削減されたという事情がある
どうせ温室効果ガス削減の数値目標が必要であるのならば、それを国益に最大限にプラスになるよう活用すべきで、その一つの大きな柱は原発の復活を推進することである。福島第一原発の汚染水処理に関する不手際から、原発への風当たりは強く、迅速な対応による信頼回復が重要であることは言うまでもないが、そのことと電源構成についてのマクロな議論や温室効果ガス削減問題は分けて考えるべきである。
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