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2006-10-14 00:00
「東アジア・エネルギー・環境協力の可能性」再論
池尾 愛子
早稲田大学教授
私は、10月3日の投稿「東アジア・エネルギー・環境協力の可能性」のなかで、日中韓のエネルギー協力の可能性をめぐるシナリオ・プラニング(日本エネルギー経済研究所による近未来の台本作成)で用いられたシナリオ・カード8つのうち4つを紹介した。残り4つのなかに、(5)「北東アジアの協力において北朝鮮は含まれるべきか、含まれるとすればいつ含まれるべきか?」がある。
ところで、10月8日に日中首脳会談が北京で5年ぶりに行われて「戦略的互恵関係を構築すること」で一致し、互恵協力については、エネルギー、環境保護、金融、情報通信技術、知的財産保護などに重点をおくことが合意された。このことは、10月3日の投稿で紹介したような「東アジアに緊張が広がり不安定化するシナリオ」が回避できる見通しになったことを意味する。翌9日には、日韓首脳会談も実現したものの、北朝鮮が地下核実験を実施したと発表したことから、東アジアだけではなく地球社会全体の安全保障が揺るがされる事態になり、国連も安全保障理事会を中心に対応することになった。
10月9日の出来事により、北朝鮮を含めた東アジア・エネルギー協力の可能性は遠のいた。しかし、他の国々の間でのエネルギー協力は(他分野での協力と同様に)、もともと不確実性の高かった北朝鮮の動向とは切り離して考察されうるものであり、また協力に向けての共通認識の醸成は急いで進められるべきものであることに変わりはない。
日中首脳会談後の共同プレス発表で、経済分野での互恵協力の強化の対象にまずあげられたのはエネルギー分野であった。代替エネルギーや新エネルギーの共同開発以外に、中国の製造部門や輸送部門でのエネルギー効率の向上、工場での省エネ技術の導入などがある。その背景には、中国が今やアメリカに次ぐエネルギー消費大国であるだけではなく、エネルギー利用の効率性が極めて低いことがある。その理由には以前から、中国では石炭以外のエネルギー価格が国際水準よりも低く抑制されていることと、省エネが経済効率の向上に結びつき収益率の上昇につながりうるのに、経営者たちがそうした利潤機会に鋭敏に反応しないことがあげられている。さらに、中国国内では省エネに向けて努力する必要性は感じられているものの、国際協力の必要性はあまり認識されておらず、また協力の実現可能性については疑問視されているような気配がある(シナリオ・カード (3))。つまり、日本側が中国産業界に対して機会があれば技術協力する意思があるとしても、中国側が日本の省エネ技術の高さを理解して技術協力を受け入れるための制度的措置を工夫する気がなければ、経済成長を支える民間部門での省エネルギー協力は進まないであろう。高度な科学技術が利用されるのは、核開発などの軍事関連分野だけではなく、一般の人々の生活や環境を効率的に支える分野でも同じことなのである。
中国の指導者が早急に訪日して、日本のエネルギー関連技術の高さを理解して、国内産業界や世論に省エネ技術協力の有効性を訴えかけることが、共通認識醸成のための早道のように思われる。振り返れば、中国が日本に対して政府借款の要請に初めて踏み切ったときには、トウ小平氏の訪日、新幹線や工場設備の見学、日本側の助言があったとされている。その上で、政策提案としては、経営者が省エネによる利潤機会を生かせるように、省エネ設備への更新や省エネ機器の製造を補助金や減税などで奨励することがあげられる。もしこれらがうまくいかないのであれば、1970年代の日本の産業界の努力を思い出し、中国の国内エネルギー価格を国際水準並みに引き上げて、エネルギー効率の向上と省エネのインセンティブ(誘因)を一挙に産業界に与えることを考えるべきであろう。
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