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2013-07-24 00:00
QE(量的緩和)の効用と不安
大井 幸子
SAIL代表
FRBバーナンキ議長が「QE続行、縮小はまだ先」と示唆し、ウォール街ではメガバンクの第2四半期の好調な決算発表が続き、資金は債券から株式へと資金がシフトしています。米国株は2008年来の高値をつけています。ベストシナリオは「景況が良くなり長期金利が緩やかに上昇し、株価も右上がり」ですが、過剰信用で生じたバブルはどこかで破綻しなければならず、実体経済とのギャップが大きければ、市場のボラティリティを高めます。これまでのQEで、多くの投資マネーが新興国市場に流入しました。中国の不動産や株式市場もその恩恵を受けてきましたが、このところ、中国の経済成長が鈍化し、シャドー・バンキングによる過剰信用が懸念されています。こういうときに、バーナンキ議長が金融引締めに舵を取れば、中国どころか世界の相場が混乱します。ちょうど1990年に当時の日銀総裁「鬼平三重野」による急激な引締めによってバブルが破綻し、その後の金融破綻と「失われた20年」を経験しました。今度は世界中が「日本の失われた20年」の危機にさらされることになります。
バーナンキ議長が「縮小はまだ先」と穏やかに処したことで、中国はホッとし、金利の自由化へと舵を取ろうとしています。米中は呼吸を合わせ、大きな混乱をうまく避けているように見えます。その一方で、コモディティ相場が下げています。中国の需要を見込んだ金や銅など国際商品市況が下落しています。中国の景気減速から、資源の需要を当て込んだヘッジファンドなどの投機筋がだいぶ損失を出しているようです。中国を含むBRICSは、今「潮目の変わる時」にあります。これを新興国が米国QEの依存から脱却する良いチャンスだととらえる意見もあります。Fidelity Worldwide Investment社Chief Investment Officer、Dominic Rossiは、”Time for EM countries to rip up the model of self-sufficiency”(新興国が自己充足的モデルへ転換の時)とコラムを書いている(FT紙7月16日付)。
ロッシ氏によれば、1997—98年のアジア危機・ロシア危機以降、新興国は経済・金融において以下の四つの政策を掲げて自足的な発展を遂げて来ました。第一に自国通貨を安く誘導、第二に輸出牽引型の経済成長モデル、第三に米ドル建て外貨準備高を積む、第四に米ドル以外の通貨での調達ルートを確保。日本の高度成長期のモデルとよく似ています。1998年以降、新興国経済が成長し、世界に富が創造され、20億人もの人々が貧困から解放されました。中間所得層が拡大し、社会が豊かになり、民主的な政治体制が望まれるようになりました。これは大きな進歩です。
一方、高度成長は永遠に続きません。貿易黒字が蓄積されるにつれ、国際間の貿易不均衡が生じ、自国通貨をいつまでも安く保つことはできません。日本でも1980年代以降、日米構造協議などで貿易不均衡の調整が行われました。中国でも金利自由化と変動相場制への移行は必須です。また、BRICS各国ともに、財政赤字をどうするか、国内の規制緩和や構造改革も避けて通れません。日本がいつか来た道を新興国もまた通過するのです。新興国は、日本のように「失われた20年」を受け入れるゆとりはありません。成長が止まれば政治的混乱を招き、20年も待てば国が滅びてしまいます。日本のQE、アベノミクスのおかげで、参院選挙で与党が圧勝、ねじれが解消し、長期安定政権の基盤ができました。失われた国際的な信用を取り戻し、成長に向けてのチャンスです。日本はこの20年で富が失われ、家計で貯金も底をつきました。もうこれ以上失うことはできません。一等国であり続ける最後のチャンスといえます。
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