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2006-10-06 00:00
外国との間のイメージ・ギャップ
湯下 博之
杏林大学客員教授・元大使
政策掲示板「議論百出」への9月8日付の投稿で記したように、私は、かつて8か国に勤務し、そのうちの5か国は日本に近い東アジアの国々であったが、近隣諸国との間においてさえ、驚くほどのイメージ・ギャップがあるというのが実情である。一例として、私が7年前まで勤務していたフィリピンで或る日本の総合商社の支店長さんから聞いた話をご紹介しよう。その支店長の部下が数年間にわたるフィリピン勤務を終えて日本に帰ることになり、送別会の席で次のような話をしたというのである。
「私は、フィリピン勤務を通じて二度泣かされました。一度目は、フィリピン勤務が決まったときで、親兄弟からは、フィリピンなんていうあぶない所に行って大丈夫か、くれぐれも気をつけるように、といわれましたし、また、友人達からは、フィリピンなんかに行かされて大変だなぁ、何か失敗でもしたのか、といわれました。私も、当時はフィリピンのことをよく知らなかったので、こういう話を聞いて、これは大変なことになったと思って、泣かされました。しかし、実際にフィリピンに来てみると、かつての混乱の時期とは異なり、治安についても他の外国と比べて特に問題はあるとはいえませんし、明るい、友好的な人柄のフィリピンの人達に囲まれて、大変楽しく過ごすことができました。ですから、私としては、もっと長くフィリピンにいたいと思っていたのですが、この度帰国することになってしまいました。特に今の日本は、経済がぱっとせず、リストラその他の暗い話ばかり多い状況ですので、この楽しいフィリピンを離れて、あの日本に帰るのかと思うと、思わずまた泣かされてしまいました。」
もう一つ例をあげてみよう。私がフィリピンで勤務している間に、私の中学・高校時代の同窓生が、二十名も大挙して、私を訪ねがてら、フィリピンを訪問したことがある。週末を利用した三泊四日の旅行であったので、私も休暇をとって、マニラ市内観光のほかプエルトアズールという海岸の保養地にも泊まりがけで出かけて、ゴルフや海水浴を一緒に楽しんだ。そのとき、私の友人達は、口を揃えて次のように言ったものである。「なあんだ、フィリピンの治安には全然問題がないじゃないか。でも、同級生の湯下がいるからフィリピンに行ってみようということになったけど、同級生がいなかったら、フィリピンに行こうなんていう話にはなりっこないな。日本では、フィリピンといえば危険な国ということになっているからな。いやぁ、思い切って来てみて、本当によかったよ。」
勿論、フィリピンに日本の観光客が行っていない訳ではない。フィリピンの海の美しさを知っている日本のダイバー達が、しっかりとフィリピンの海を楽しんでいることは、知る人ぞ知るところである。また、セブ島には、私のフィリピン在勤当時も、新婚旅行のカップルを含め日本から多勢の観光客が訪れていた。しかしながら、日本の旅行会社は、セブ島のことは「セブ」とだけ言って、「フィリピン」とは言わないとのことであった。フィリピンと言ってしまうと、危険な所ではないかと思われて、客足が落ちてしまうとのことであった。
フィリピンの現状、特に治安状況について、実態と日本におけるイメージとの間に大きなギャップないしは時代のずれがあって、それが、日比両国間の交流や経済活動にマイナスになっていた。フィリピンにある日本人商工会議所もこのことを気にして、改善を試みたりしておられたが、残念ながら、簡単にその成果が生まれるという状況にはなかった。日本が諸外国とので、緊密かつ良好な関係を保つためには、このようなイメージ・ギャップをなくすことも大切である。次回は、そのための方策について感じることを記してみたい。
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