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2013-06-14 00:00
安倍はネットで高転びに転ぶ
杉浦 正章
政治評論家
孔子が君主の理想を「威ありて、猛(たけ)からず」と述べている。威厳はあるが、心の底に温情があって、決して荒々しくはないのが、君主のあるべき姿だというのである。残念ながら、今回の首相・安倍晋三による元外交官・田中均批判は、この教えに逆行する。そればかりか、さらなる君主の条件とされる「諫めを拒み、非を飾る」に堕しそうになっている。忠告を拒み、自分の非を弁護し、付和雷同者だけを重要視する傾向である。政権発足から半年が過ぎて、安倍は意外な“小人ぶり”を露呈してしまった。最大の陥穽(かんせい)は、ネットの“素人”が感情丸出しでこれを活用しようとして、失敗している点にある。このまま放置すると、取り返しのつかないことになる。今を盛りの国のトップが、一民間人である元外交官の過去をえぐって、非難するケースを初めて知った。しかも真っ向幹竹割りそのものの批判だ。田中の毎日新聞のインタビューの急所を要約すれば「日本が極端な右傾化をしているという声が聞こえる」「中韓に日本を攻撃する口実を与えてしまっている」「日本が中韓との関係で孤立しているように映っており、それは米国の国益にもそぐわないという認識が強い」「飯島さんの訪朝がスタンドプレーだとは言わないが、そう見られてはいけない」「偏狭なナショナリズムによって動く国だというレッテルを貼られかねない状況が出てきている」の5点に尽きる。
これに対して安倍は「彼に外交を語る資格はない」と断じたのだ。さらに安倍は「田中氏は、拉致被害者5人を北朝鮮の要求どおり、北朝鮮に送り返すべきだと強く主張した。田中氏の判断が通っていたら、拉致被害者や子どもたちは、いまだに北朝鮮に閉じ込められていたことだろう」と非難。加えて、「外交官として決定的判断ミスだと言える。そもそも彼は北朝鮮との交渉記録を一部残していない。彼に外交を語る資格はない」と言い切った。一連の書き込みは、小泉純一郎訪朝以来の官房副長官・安倍とアジア大洋州局長・田中の「相克」を明らかに引きずっている。田中と内閣官房参与・谷内正太郎は外務省の同期であり、両者の「葛藤」も間違いなく絡んでいる。安倍と今回訪朝した飯島は「田中が天敵」と自民党幹部が漏らしていることも当たっているのだろう。その安倍発言を分析すれば「外交を語る資格はない」は、外交官を断罪する言葉として究極の強烈さをもつ言葉であるが、田中はそれほどのことを言っているのだろうか。田中の5発言はごく自然な表現であり、最近の官邸外交の特徴をよく捉えている。むしろ発言を寛容に受け止めて、是正すべきは是正する度量が必要な発言であるとさえ言える。
安倍・田中の“相克”を知らない者は、唐突なる批判にあ然とするだろう。拉致被害者を「北朝鮮に送り返すべきだ」と田中が進言したとしても、首相・小泉はその進言を採用せず、5人の被害者は日本に留め置かれた。政治家が最終判断に至るまでに官僚は様々な選択肢を提示すべきであり、田中は当然の義務を果たしただけとも言える。さらに安倍発言の致命的な部分は、「そもそも彼は北朝鮮との交渉記録を一部残していない」という部分だ。これは北朝鮮や中国のスパイが欣喜雀躍(きんきじゃくやく)して報告する部分だ。なぜなら、安倍が飯島訪朝に先立って懸命になって交渉記録を探させたが、見つからなかったことを物語るからだ。このような安倍発言の内部事情露出は、どうして生じたかを分析する必要がある。まず第一に、安倍は就任以来三日しか完全休養を取っておらず、誰が見てもワーカホリック(働き中毒)的な異常性を帯びている点だ。これが自らのいら立ちを高め、多少の批判にこらえ性のない反応を示す原因になっている可能性がある。安倍は6月9日にもフェイスブックで「聴衆の中に左翼の人達が入って来ていて、マイクと太鼓で憎しみを込めてがなって、一生懸命演説を妨害してました」と書き込んだ。慌てて翌朝になって消してしまったが、野党の批判を浴びた。これと酷似したのが、今回の田中批判だ。酒に酔って深夜ウエブに書き込みをすると、勢い余って書きすぎることは、誰にもあることだが、安倍にもその可能性があるのではないかと推測される。
いずれの発言も、安倍への支持が強い「ネトウヨ(ネット右翼)」を意識したものであろうが、逆にネットではいい餌食にされてしまっていることを知らない。ざっと見ても、8対2で批判の方が多い。書き込みは明らかに野党の職員や政治家が行っているとみられるケースもある。自民党も、官邸も、この安倍の夜中の書き込みを放置しておくと、ほぼ100%の確立で高転びに転ぶと思っていた方がよい。国のトップのネットへの書き込みは、新しい情報伝達の手段として重要であり、継続はすべきだ。しかし、首相という国のトップが1人で、側近の精査もなく、生の言葉を書き込むことほど危険なことはない。パソコン通信時代からの「ウエブお宅」の筆者が言うのだから、間違いない。最後に、同じ田中でも田中角栄が首相対官僚のあるべき姿として述べている発言を紹介する。安倍は拳拳服膺(けんけんふくよう)せよ。「日本の官僚は優秀だ。こちらのほうに官僚を説得させるだけの能力があるか否か。次に、仕事の話にこちらの野心、私心というものがないか否か。もう一つは、官僚が納得するまで、徹底的な議論をやる勇気と努力、能力があるか否かだ。これが出来る政治家なら、官僚たちは理解し、ついてきてくれる」。
(注:投稿者の個人的見解である)
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