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2013-05-28 00:00
(連載)弁護士らの生活保護法改正批判は、決めつけが過ぎる(2)
鈴木 亘
学習院大学教授
次に、親族による扶養義務の強化です。これは現行の民法を考えれば、当然のことだと思います。もちろん、生活保護の個人化はずいぶん前から議論されていますし、筆者としては、そういうことがあっても良いとは思うのですが、生活保護法の背景にある民法の方が扶養義務を規定している以上(生活保護法では民法の規定に倣うとしている)、民法を変えない限りは、親族に扶養義務を求めることは仕方がないと思います。注意すべきは、今回も、扶養義務は、生活保護の要件(条件)にはなっていないと言うことです。単に、扶養者に対して照会が行くと言うことを、明文化したということですから、これは厚労省の言うように、これまでの運用を文章にしたと言うことなのだと思います。自民党の一部は、明らかに要件化を求めていましたので、厚労省の判断は現実的で、むしろ妥当だと思います。これも、厚労省の言うように、これまでと同じ運用がなされるということなのだと思います。生活保護受給者を扶養することによって、その親族の生活の維持が難しくなるようなケースでは、これまで同様、扶養義務が課されることはありません。また、これまでも、扶養者への通知は行っていたのですから、運動家たちが「今回の改正によって、貧困者が生活保護の申請をより躊躇するようになる」と批判している点は、論理的ではありません。
第三に、調査権限の強化です。これは、まったく当然のことであり、批判には当たらないと思います。個人情報保護法ができて以来、福祉事務所からの預貯金の照会に、銀行が断ってくるというケースも現場では増えています。資産調査がスムーズに遂行されるために、また、不正受給を防ぐために、この改正は不可欠であると思います。また、ひところ批判されたお笑い芸人のような悪質なケースを防ぐためにも、扶養者に対しても資産、所得調査ができるようにすべきであり、今回の改正は当然のことだと思います。ただ、どの程度の資産、所得を持っている場合に、扶養義務を求めるかということは、厚生労働省は、「ガイドライン」によって目安を作るべきかと思います。そうしないと、これまで同様に、貧困な親兄弟に迷惑がかかるからと生活保護の申請を出し渋るということが起きかねません。扶養者の生活の維持が難しくなるケースでは、これまで同様、扶養義務が課されることはないということを、目安の金額として明文化した通知を、厚労省は今回の改正に合わせて、出すべきだと思います。むしろそうしたガイドラインを明文化した方が、貧困な親族に気兼ねすることを防ぐことができるので、現行のいい加減な裁量制の制度より望ましいと考えます。
いずれにせよ、今回の法改正は、自民党対策という面が強いと思います。一見、辛口の味付けをしたように見えますが、その内容は運用次第で、今までの甘口も可能なものになっているのです。社会援護局の苦労の跡は随所に散見されます。厚労省が運用面で今までと変わらないように配慮するというのであれば、通達という担保を出させるのが現実的でしょう。
また、もうひとつ重要な点は、今回の生活保護法の改正案は、生活困窮者支援法とセットであるということです。内容的にも補完し合うものであるし、政治的にも二つは合わせ技のセットで進んでいます。一方を廃案にして、一方だけを通すことなど、政治的に不可能です。セットとして考えれば、今回の生活保護改革は決して悪いものではないと筆者は考えます。廃案を求める運動が大局的に正しいのか、現実的なのか、考えてみる必要があるでしょう。(おわり)
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