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2013-05-22 00:00
自民党の憲法第96条改正提案について
若林 洋介
学習塾経営
憲法改正条項は、世界各国において一般の法律より高いハードルが課せられている。その理由を今しっかりと考え直す必要がある。それは憲法には「神聖で不可侵の価値」が含まれているからである。たとえば、自民党改正草案では、天皇の地位が「象徴」から「元首」に格上げされ、「天皇を戴く国家」という条項さえ書かれている。これは天皇の地位を国民の総意によって変更するものであるから、それ自体は、手続きを踏んで実施すれば、なんの問題もないかのように見える。しかし、それは大きな勘違いである。こういう重要な条項を含むからこそ、憲法改正には国会議員の3分の2の多数の発議が必要とされるのではないか。
自民党の第96条改正案では、国家議員の過半数、国民投票の過半数によって、天皇の地位の変更が可能になる。日本の歴史における天皇の地位の特徴は、その安定性にある。実際にも、幕末の「大政奉還」以前の日本は、武家政治の時代であり、朝廷は実権をもっていなかった。が、それにもかかわらず、それはそれなりに安定していたのである。自民党案は「元首への格上げ」案であるから、天皇の地位は一見より重くなるように見えるが、だからといって、天皇の地位はその安定性を増すわけではない。第96条の改正(自民党案)がなされると、憲法上の「天皇の地位」の変更は、改正前よりも容易になる。ここで「元首への格上げ」という地位の変更に着手するならば、国民の心の中に「天皇の地位は、自分達の意志で格上げでも、格下げでも自由にできるのだ」という観念が定着することになるからである。それはむしろ「天皇の地位」の不安定化を意味することになり、日本の歴史的伝統に反することになる。天皇の地位の変更は、歴史的大変動期において、やむにやまれぬ大きな変革への気運と権力機構の革命的な変革を通じてのみ実現されるべきものであって、それ以外の時期において「国民の総意」なるものの下で安易に行なってはならないものである。
「天皇の地位」以外にも、「基本的人権」や「国民主権の原則」が、憲法前文において「侵すことのできない永久の権利」とされており、それらは不可侵の理念である。憲法はこういう条項を含んでいるからこそ、その改正の発議に国会議員の3分の2の多数の賛成が求められるのである。「人類普遍の法則」や「永久不可侵の人権」がいくらでも変更可能ということになれば、これらはもはや「人類普遍」でも、「永久不可侵」でもなくなるからである。
自民党の第96条改正案では、理論的にも、実際的にも、ある時代の国民の意思で、その後の世代のために確保されるべき重要な価値概念が変更できるということになってしまう。国会議員の過半数、国民投票の過半数で憲法改正が可能になれば、カリスマ的な政治指導者が出現した場合「時代のムード」でいくらでも憲法改正が可能になってしまう。もしどうしても第96条の改正が必要だというのなら、せめて3分の2条項で守るべき条文と、2分の1条項で変更できる条文とを区分けして、そのうえで憲法第96条を改正することを提案したい。
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