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2013-05-16 00:00
“飯島キッシンジャー”の「唖然」をさぐる
杉浦 正章
政治評論家
内閣官房参与・飯島勲が平壌国際空港で唖然(あぜん)とした顔をしていたことが物語るものは何か。「唖然」の原因は、北のテレビなど報道陣が詰めかけていたことだが、極秘裏のはずの訪朝をなぜ北が公にしたかということが、まず外交的にはひっかかるのだ。公にしたからには、北も拉致問題で何らかの“手土産”を意識している可能性が強いからだ。一方で、米韓を中心に飯島訪朝への不協和音が生じているが、日本にしてみれば核とミサイルの交渉で「日本外しの米、中、韓主導」への強いけん制の意味合いが見て取れる。「外務省外し」の強気の安倍官邸路線でもある。飯島訪朝は、かねてからテレビで公言していた話である。飯島は「日朝間には融和の精神が必要。私がいつか訪朝して根回しをして前に進めば、安倍総理と金正恩第一書記との会談をやらなければならない」と明言している。また拉致問題の見通しについて、「帰ってくる、帰ってこないではなく、拉致問題は進展すると見ても良いのではないか」と述べている。この飯島の自信の背景には2002年、04年の小泉訪朝に深く関与した経緯がある。その過程において飯島は、朝鮮総連幹部とのパイプができ、安倍政権発足以来このルートを通じて訪朝の機会を狙っていたのだ。
北の置かれた状況は、中国までが金融制裁をするという、完全なる国際的孤立だ。ひしひしと国際包囲網を感ずる中で、過去に使った対日「拉致カード」を使う構想が金正恩政権内に出てきてもおかしくない。現に野田政権の拉致担当相であった松原仁は「世界的に北朝鮮に厳しいムチが加わっている時に、拉致問題が動いた経緯がある。いまの環境は極めて02年の小泉訪朝当時とと類似している。何らかの救いの手が欲しいときに、拉致問題で飛び付いてきた状況と似ている」と述べている。飯島は訪朝を極秘裏に進めてきた。まるでニクソン訪中を実現した大統領補佐官キッシンジャーのように、隠密外交で事を運ぼうとしていたのだ。そして北が吠えまくった米韓軍事演習も終わり、事態は膠着状態に立ち至っている。核とミサイル関係の交渉は米韓、米中ペースで進められ、安倍の歴史問題発言や領土問題もあって、日韓、日中関係は最悪の状況。安倍の心中を測れば、米、中、韓による日本置き去り交渉は不愉快極まりないと言ってよいだろう。ここで独自に北との関係改善の手を打とうと決断しても無理はない。韓国はもちろん、米国にも連絡しないで飯島派遣を決めたのだ。日本は「拉致」という他国にない問題を抱えており、これを逆手にとって突破口とするため、北への接近を試みたのだ。
案の定、韓国政府内部には日本の独走を懸念する声が生じ、米国の北朝鮮特別代表デービースからも「何か報告が聞けるのを楽しみにしている」と皮肉めいた発言が生じた。ホワイトハウスもオバマが朴槿恵に「韓国、日本と緊密に調整を続ける」と述べたばかりであり、不満に違いない。そこで平壌空港での飯島の「唖然」に話は戻るが、まず官邸がなぜ訪朝を極秘にしたかということだが、ここに来て最大の北の関心事が持ち上がっている。朝鮮総連中央本部を落札した北に近い宗教法人が資金難で放棄せざるを得なくなり、再入札が行われる状況となっている。飯島はこの総連本部の問題をカードに、拉致問題を前進させようと考えてもおかしくない。しかし、確たる事態前進の保障はない。そこでまず極秘裏に訪朝して瀬踏みをする腹だったに違いない。
一方、極秘の訪朝を北が暴露して、飯島の動静を大々的に放送している理由は何か。まず第一に、国際社会に対して「孤立していない」と宣伝したいのだろう。また日本を拉致問題で取り込めれば、対朝包囲網の分断につながる。加えて「事実上の大使館だ」とする朝総連ビルの問題を何とか打開したいに決まっている。さらに北にしてみれば、このところ冷たくなった対中けん制の意味合いもある。日本カードを切って日本から将来援助を貰う流れができれば、金正恩にとって大変な成果となる。それに比べれば拉致問題などは、小さいのである。それではどんな“お土産”をもって飯島は帰国できるのだろうか。突然拉致問題が進展して、安倍訪朝による日朝首脳会談などが実現する可能性はあるのだろうか。日朝外交筋の見方によると「中断している拉致問題調査の再開がありうる」という。飯島は週内には帰国するものとみられ、北朝鮮で会う相手のレベルによって“土産”の内容が分かってくるかも知れない。
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