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2013-05-14 00:00
政府はPAC3の展開を取りやめるべき
桜井 宏之
軍事問題研究会代表
北朝鮮が新型の中距離弾道ミサイル「ムスダン」を発射施設から撤去したとみられることが判明したが、政府は迎撃態勢を続ける方針の模様だ(http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130508/plc13050811390012-n1.htm)。すでに政府が破壊措置命令を発出してから1ヵ月以上経過している。筆者が耳にしたところでは、迎撃態勢に携わる自衛隊の現場は疲労困憊の極みにあるという。迎撃態勢に携わる現場の自衛官は、いつ来るか分からぬ呼出に備えて、非番であっても外出もままならないそうだ。以下の理由から、PAC3の展開の必要性はないので、政府はこれを取りやめ、自衛隊を北朝鮮弾道ミサイル迎撃態勢の疲弊から解放することを提案したい。
世間では我が国の弾道ミサイル防衛について、北朝鮮によるミサイル攻撃に対しては、ミサイルが大気圏外にあるうちに日本海に配置されたイージス艦からSM3ミサイルで迎撃し、もし撃ち漏らした場合は地上に配備されたPAC3ミサイルで打ち落とす二段構えの態勢であると理解されているが(http://www.news24.jp/articles/2013/04/12/10226583.html)、これは全くの誤解である。第1に、北朝鮮から発射された弾道ミサイルが我が国に着弾するまで約10分程度と見積もられており、車両で展開するPAC3が、ミサイル発射後に着弾予想地域に展開することは不可能である。第2に、さらにPAC3の迎撃範囲は大目に見ても数十キロと見積もられており、しかもその数は16基(1基につき4発のPAC3)しか存在せず、日本列島の面積からすれば、「点」の防御に過ぎない。第3に、そもそもPAC3は、「他国と交戦状態になったとき、首都や重要な基地をピンポイントで守るのが本来の役割」(http://mainichi.jp/select/news/20130412ddm005030126000c.html)で、菅官房長官が言うような「いかなる事態にも国民の生命と安全を守るべく万全の態勢(http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130507/plc130507
11100000-n1.htm)を取ることをPAC3に期待することは端から無理なのである。
本来であれば、PAC3の能力の限界を認めた上で政治が、守るべきもの(者・物)と犠牲を覚悟すべきものとを国民の前に明らかにする必要があるが、残念ながらそうした「苦い」話を国民に説明しようとする政治家は我が国にはいない。「守るべきもの」の観点で今回のPAC3の展開を見直すと、北朝鮮によるミサイル攻撃からの報復を担保するはずの在日米軍基地が防衛の対象に入っていない。このことは、日米両政府とも北朝鮮による我が国(在日米軍基地)へのミサイル攻撃を本気で心配していない証左と言える。それでも北朝鮮が我が国上空を越えて弾道ミサイルを発射した場合、ミサイルからの落下物からの被害を防ぐためにPAC3の展開は有効(事実過去においてもそれを理由に展開されたが)と考える向きもあるかと思われるが、これも誤解に基づく。すなわち、SM3やPAC3は飛来する弾道ミサイルの弾頭に迎撃ミサイルの弾頭を直接衝突させて弾道ミサイル弾頭を無力化するという「運動エネルギーによる破壊」という方式を採用している。その理由は、弾道ミサイルの弾頭が、大気圏からの再突入による熱などの影響を受けないように非常に強固な物質で覆われているため、至近での爆発で破壊することが困難であることから、直接衝突させるのである。このため弾道ミサイル弾頭に命中したとしてもその破片は落下するので、副次的被害は防ぎようにない。そもそもPAC3の運用思想は、ミサイル弾頭の直撃を食らうより、その直前で破壊して破片を浴びた方が「まだましでしょう」というものであり、安全を確保するものではない。
世間では、PAC3が命中すれば落下物が消滅するかの印象を持っているようだが、実際は、弾頭に比してその装甲が薄いロケット部分の落下物にPAC3弾頭が直撃しても、そのまま突き抜けてしまう可能性が高い。従って落下物の射程内にPAC3が奇跡的に展開していて、これを迎撃したとしても落下物の被害を防止することは全く期待できない。以上の理由から、現在PAC3を展開する必要性は全くない。現状は、いたずらに現場を疲弊させているだけなので、政府は早急にその展開を取りやめることを提言する次第である。
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