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2013-05-07 00:00
敵基地攻撃能力を保有しても第一撃からの回避は不可能
桜井 宏之
軍事問題研究会代表
杉浦氏は、「我が国が敵基地攻撃能力を保有すれば、中国や北朝鮮が弾道ミサイルを発射する前にこれらの破壊が可能になる」と理解されていると見受けられました。残念ながら敵基地攻撃能力を保有したとしても、これらの国からの第一撃は甘受せざるを得ません。この問題について、防衛省のシンクタンクである防衛研究所が行った部内研究「大量破壊兵器を搭載した弾道ミサイルの脅威下における専守防衛の在り方」(防衛研究所平成16年度特別研究)に依拠して説明したいと思います。なお、本研究は筆者の情報公開請求に対して平成19年4月27日付け防官文第4502号により防衛省が開示したものです。
我が国に向けて発射されると想定される、北朝鮮のノドンや中国のDF-21のいずれもが移動式ランチャーに搭載されています。移動式ランチャーは、常に移動が可能なため、位置を特定するのが極めて困難です。例えば敵基地攻撃を巡る議論の中で「相手が燃料注入を始めたのを確認した時点で自衛権の行使が可能」というような議論がありますが、相手のミサイル・ランチャーがどこにいるのか分からなければ、そもそも攻撃などできません。従って200基あると見積もられている北朝鮮のノドン・ミサイルの全てを事前に捕捉して、発射前にその全てを破壊するということは現実的には不可能です。つまり、敵基地攻撃能力の目的を第一撃のリスクをゼロにすることに置くのであれば、目的の達成は不可能だということです。それでは敵基地攻撃能力は全くの無駄かというとそういうわけではなく、弾道ミサイル防衛と組み合わせて、我が国に飛来する弾道ミサイルの数を減らすことで、少しでも我が国の被害を減少させるという面で貢献できると言えます。
ただし、その能力をわが国単独で整備することについて、上記研究は「移動式弾道ミサイル・ランチャーを攻撃するには、高精細度の偵察衛星、地上監視用のUAV、あるいは地上で目標を指示する特殊部隊によってランチャーの所在を突き止め、それをリアルタイム情報処理可能なネットワークによって攻撃部隊に伝達しなければならない。多少なりともこれに近い能力を持っているのは米国だけだが、我が国が同様の能力を整備するには膨大な資源と時間を必要とするであろう」と費用対効果比の観点から疑問視しています。また上記研究は、日米安保の観点からも「そもそも我が国が単独で敵基地攻撃を行わなければならない国際情勢とはいかなるものか。現状ではこの種の攻勢的作戦は米国が行うことになっているわけだが、それを我が国が単独でやらなければならない状況とは、現在の日米同盟の役割分担体制がもはや空洞化していることを意味する。米国が、アジア太平洋地域で最も重要な同盟国である日本の存亡がかかった状況で、日本からの攻撃要請を無視するほど日米関係が冷却しているとしたら、その時はもはや核の傘も情報協力も期待することはできないだろう」として我が国が単独でそれを行うことに懐疑的です。
加えて、見落とされがちですが、敵基地攻撃能力の保有で先制攻撃態勢を整えることは、安全保障のジレンマを引き起こす懸念があります。安全保障のジレンマとは、自国の安全保障を向上させるために採った施策が却ってそれを低下させる矛盾を指します。例えば、自国の防衛力整備が、周辺諸国の疑心暗鬼を引き起こし軍拡を招くような状況がそれに該当します。我が国が敵基地攻撃能力を整備して、弾道ミサイルの破壊が可能となれば、その対象となる諸国には、「弾道ミサイルが破壊される前に発射」しようという誘因が働きます。つまり先制攻撃の前に先制攻撃という連鎖が働き始めます。安全保障の諸施策には関連諸国の相互作用が必ず働きます。いかなる作用が働くか見極めた上で、タイミングを計る必要があるでしょう。
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