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2013-03-13 00:00
(連載)米国の戦略重点は再び欧州と中東に移るのか(3)
河村 洋
外交評論家
今世紀における世界規模でのグレート・ゲームに鑑みて、アメリカが性急に中東から撤退し、大西洋同盟の結束も乱れてしまえば、地政学的な競合関係にある中国、ロシア、その他の新興諸国の間でアメリカの優位に立ち向かおうという機運が高まりかねない。第二次世界大戦の際には、シンガポールの陥落により、アジアのみならずヨーロッパと中東においてもイギリスの威信は低下したが、当時のイギリスとは異なり、現在のアメリカはイラクでもアフガニスタンでも敗北したわけではない。また、太平洋諸国の中には日本のように近隣諸国よりもヨーロッパと共通の政治的利益を有する国もある。アメリカの古くからの同盟国であり主要な先進民主主義国である日本にとって、オバマ政権がアジア回帰の名の下に新興諸国重視に転じてしまうと、アメリカにおける日本の重要性の低下にもつながりかねない。
世界におけるアメリカの立場を強化する上で、軍事力そのものが必ずしも万能というわけではないが、アメリカが他の地政学的な競合相手に対して優位に立ち続けるためには、必要不可欠である。最も重要な問題は戦略的なバランス配分ではなく国防力の削減である。特に財政支出の自動削減によって、アメリカの外交政策の選択肢は著しく狭められてしまう。『ニューズ・ウィーク』のデービッド・フラム編集論説員は、共和党の財政保守派であるポール・ライアン下院議員が、3月に財政支出自動削減になるならなればよいとまで口走ったことを非難している。
国防費のさらなる削減がもたらす致命的な結末を危惧し、フラム氏は国防力強化に熱心な政治家達に自動削減を止めるための行動を呼びかけた。国防支出削減の煽りを受けるのは軍事作戦と装備だけではない。事務および兵站業務、そして民間関連産業の雇用も犠牲になる。さらに訓練も大幅に削られてしまう。これらの影響は、二正面での危機に同時に対処するというアメリカ外交の指針に、きわめて大きな制約を課すことになる。こうした事態を避けるため、外交政策イニシアチブは2月19日付けで上下両院の民主党および共和党の指導者達に公開書簡を送った。しかしホワイトハウスと議会は合意に至らず、自動削減は軍事技術者の給与2割削減からスタートすることとなった。
世界は二正面の危機に対処できるアメリカを必要としている。こうした観点から、バイデン氏がミュンヘンで行なった演説に見られるようなワシントンの政策転換は歓迎できる。アメリカがシンガポール陥落時のイギリスのように行動する理由はどこにもない。オバマ氏が党派の分裂にうまく対処できなかったことは、世界におけるアメリカの指導力を大いに損ねた。ミュンヘン演説とケリー長官の就任後初歴訪は大西洋同盟とアメリカの中東への関与を回復させる手始めになるかも知れない。財政支出自動削減と戦略重点の再転換の複合効果については、さらに見ていく必要がある。(おわり)
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