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2013-02-10 00:00
(連載)イスラエルの対シリア軍事作戦が意味するもの(2)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
このような背景のもと、イスラエルはついに二大敵対国の一方、シリアへの軍事作戦を行ったのです。イスラエルの軍事行動が、今後も継続的に行われるか否かは予断を許しません。しかし、周辺地域の混乱が続き、緊張が高まる状況は、イスラエルをしてより一層の軍事行動に向かわせる可能性は大きいといえるでしょう。一方で、この状況は、シリア情勢にも微妙な影響をもたらしているとみられます。2月4日、シリア国民連合がアサド政権の「平和的退陣」のための交渉の用意があると声明を発表しました。それに先立って、シリア国民連合のハティーブ議長はアサド政権と対話の用意があると表明していましたが、国民連合内部からアサド退陣を大前提にするべきという批判があがっていました。これを受けて、4日のハティーブ議長の声明に「平和的退陣」が盛り込まれたことになりますが、いずれにせよ、これは国民連合側が交渉を加速させようとする意思を表すものといえます。
同声明発表の約ひと月前の1月6日、アサド大統領は反体制派との協議を拒絶する一方で、周辺国などによる反体制派への支援停止を前提に、包括的な国民対話の実施、新憲法の制定、新政府の樹立など独自の和平案を提案しました。しかし、これに対してシリア国民連合は、アサド政権の責任が不明確になることから、徹底抗戦の構えをみせていました。つまり、少なくとも結果としては、イスラエルがシリアの軍事施設への空爆を行った前後で、反体制派の国民連合の対応には、「アサド退陣がなければあくまで徹底抗戦すべし」から「アサド退陣は大前提だが、それを織り込んだうえで交渉すべし」へと微修正されたとみることができます。
先ほど述べたように、シリア国民連合にとってもイスラエルは「友好的な隣人」ではありません。それが関与してくることになれば、ただでさえ戦闘が長期化し、事態収拾に目処がたたないシリア情勢がより混沌としてくることになり、安定は遠のく一方です。そうであるならば、イスラエルが本格的に関与してくる前に、シリア内部で決着を着けた方がいい、という判断がシリア国民連合内部にあったものとみられます。「当事者たちが(自らの利得を最大化するという意味で)合理的に判断するはず」という前提に立つならば、「イスラエルの関与が強まる前に国内で決着をつけるべき」という判断は、体制派と反体制派を問わず全ての当事者に共有できるものと捉えられます。ただし、何をもって「合理的」と呼ぶかは、立場によって異なります。
客観的条件が交渉に向かわざるを得ない方向性に向かわせていることを、全てのシリア当事者が認識できたとしても、そのなかで少しでも自らに有利な条件で交渉を進めようとすることは、想像に難くありません。アサド政権にとっての最大の利得は、「アサド退陣なしの和平」、反体制派にとっての最大の利得は、「アサド退陣をともなう和平」です。正面から利害が対立することで、交渉が膠着することは充分にあり得ます。その一方で、シリア国民連合とアサド政権の間で交渉が進展することがあるとすれば、政権側の実権を握っている軍幹部たちが、自らの身の安全を確保したうえで、アサド個人を切り捨てる場合と考えられます。つまり、エジプトで軍がムバラクを切り捨てて自らの立場を保全したように、全ての責任をアサドにかぶせることで、新体制の下で生き残ることをシリアの「影の実力者」たちが決意できた場合、言い換えれば軍幹部たちが「アサドを切り捨てて自分が生き残る」ことに合理性を見出した場合、交渉を阻むハードルは一気に下がります。(つづく)
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