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2013-02-01 00:00
(連載)ミャンマーの民主化・少数民族問題と日本(3)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
このような環境のもと、日本企業のミャンマー進出が活発化しています。貿易・投資の増加が、日本企業への経済チャンスとなるだけでなく、ミャンマーの経済成長にも寄与すること、さらに両国間の関係を強化することはいうまでもありません。また、東南アジア一帯で広がる、中国のプレゼンスとこれに対する警戒感の間隙をぬい、ミャンマーを含むこれら諸国との関係を強化することは、中国との関係において重要な意味をもつことも確かです。しかし、その一方で、ミャンマーをめぐる問題が、日本政府の場当たり的な対応を改めて浮き彫りにしたことも看過できません。もともと、欧米諸国が経済制裁を課すなかで、日本はミャンマー向け援助を出し続けてきました。2008年以降、2007年のデモを取材していた日本人ジャーナリスト長井健司が兵士によって銃殺される光景が繰り返しTVで報道されたこともありましたが、日本政府の基本的な立場は、「関係を維持することで事態の改善を促す」というものでした。しかし、関係を維持しながら、日本政府がSPDCに対して民主化や少数民族問題の改善に向けた努力を促した形跡は確認できません。少なくとも、上述の経緯に鑑みれば、日本政府のスタンスがミャンマーの体制転換に寄与したとはいえません。
日本政府は、一方で西側先進国として、欧米諸国からは人権保護や民主化を開発途上国に求める立場にあることを、暗に求められています。しかしその一方で、日本は相手国の内政を理由に経済関係を停止することには、基本的に消極的です。1980年代に国連による経済制裁の対象となっていたアパルトヘイト体制下の南アフリカと最後まで通商を続けたことは、その象徴です。南アの問題をめぐり、国際的な非難を受けて以降、特に、イランなどの例外はあるものの、欧米諸国が非難する国と積極的に経済関係を構築することは少なくなりましたが、他方で相手国に国内問題の解決を求めることは稀です。その背景には、特にアジア諸国に対しては、欧米諸国と比較して日本は地理的にも近いために、より密接な関係を築いておくことを重視しており、さらに第二次世界大戦中の各種の人権侵害を鑑みれば、民主化や人権保護を強く求めにくいという事情もあります。日本には何かの理念を奉じて、その実現を求める傾向が弱いことも、これに影響を及ぼしているといえるでしょう。
いずれにせよ、この二つの立場に由来する相反する要請により、日本政府はミャンマーに対して人権保護や民主化をほとんど求めることはなく、援助を提供し続け、関係を維持したわけですが、さらにその一方で、これらの国内問題にほぼ全く頓着しない中国などとも異なり、体制転換までは積極的な経済関係の構築を控えてきたのです。欧米諸国の「人権保護」や「民主化」圧力にダブルスタンダードがあることは否めませんし、経済利益だけを追求する中国の立場を称揚することもできません。そしてまた、各国が基本的に自国の利益を最優先にすることもまた、国際政治の冷厳な現実だと思います。とはいえ、誰のため、何のためか分からない援助を続け、さらに風向きが変わった途端にアプローチを強める姿勢は、決して感心できるものではありません。少なくとも、ミャンマーの政府からはともかく、市民からは、日本政府の姿がよくみえないことでしょう。
2010年末以来の「アラブの春」で明らかとなったことの一つは、市民のもつ発信力が政治的原動力になる、ということでした。相手国の政府との友好関係のみを考えていると、政治状況に変化が生まれた場合、相手国内部で自国に対する反発が噴き出すことすらあります。エジプトのムバラク政権と友好的だったアメリカに対する批判、リビアのカダフィ体制と親密だった中国への批判は、その典型です。これを考慮して現代では、欧米諸国はもちろん中国政府も、TVなどのメディアを通じて自国の立場を相手国市民に伝える「公共外交」に余念がありません。自国を知ってもらい、併せてファンを確保すること。日本の場合、自動車や電化製品だけでなく、近年ではアニメやゲームといったコンテンツを通じて、海外に親日派が多くいることは確かです。しかし、これらはいずれも企業努力の結果であって、政府が何らかテコ入れした成果ではありません。この観点からすれば、外交のカウンターパートを相手国政府のみと捉えがちな姿勢を改め、相手国の野党や市民にまで視野を広げることは、政権を問わず日本政府に課された宿題であり続けるといえるでしょう。(おわり)
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