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2013-01-15 00:00
(連載)トレーニンの4島返還論をめぐって(3)
袴田 茂樹
新潟県立大学教授
この提言の評価であるが、世界的に著名なロシアの政治学者が、日本にも譲歩を求めているとはいえ、最終的には4島返還論を提案していることは、注目に値する。しかし、幾つかの問題点もある。まず、最初に述べたように、この見解はロシアの指導部、議会、世論の雰囲気とは大きく乖離しており、日本よりもロシア国内で強い批判や反発を受ける可能性が強い。次に、トレーニン氏は、日露間の政治合意の前に、北方領土などへの日本の公的、私的な投資を呼び掛けている。しかしこれは、ロシア側が常に主張している北方領土での共同経済活動という提案や、いわゆる「出口論」と重なってしまう。そうなると、政治解決の確約のないままでは、経済協力もロシアに利用されるだけではないか、という懸念がある。ロシア主権下での特別の法的レジームについても、具体的に何が可能か、たいへん難しい問題である。
さらに、プーチンの意図と力量に対する評価の問題がある。プーチンはかつて中国との間では「land-for-peace」の取引に応じたのだから、日本との間でも「land-for-development」の取引に反対する筈はないと述べている。つまり、ロシア極東の発展のための領土問題での日本への譲歩という考えだ。しかし、ロシアでは多くの者が、日本との領土問題解決によって極東での投資が一挙に増え、ウラジオストクがロシアのサンフランシスコになるとは信じていない。
また、プーチンが日本との関係改善に意欲を持っているのは間違いないが、彼が北方領土問題でどれだけ柔軟な姿勢が出せるか、そもそも彼に柔軟姿勢を出すための力量があるか、これも問題点だ。プーチンは2012年3月に、柔道用語の「ヒキワケ」「ハジメ」を使って、言葉のうえでは領土問題解決に一見前向きの「妥協」姿勢を示した。しかしそのとき彼は、国後、択捉の交渉はまったく問題外だとし、56年の日ソ共同宣言による歯舞、色丹の「引き渡し」も、返還ではなく、その後も主権をロシアが保持し続ける可能性を示唆している。つまり、プーチンは領土問題ではきわめて強硬な姿勢を保持しているのだ。トレーニン提案について、次のように考えるとしたら、それはあまりに楽天的な幻想である。つまり、最近プーチン大統領は新たに「アジア重視」を強調しており、この提案もその流れの中で生まれた現実性のある提案、あるいは観測気球ではないか、という見方のことである。
何れにせよ、「中国」「エネルギー」「シベリア極東重視」「アジア太平洋地域への統合」などの諸ファクターが絡んで、いま日露関係に変化が生まれつつあるのはたしかだ。そのような状況の中で、トレーニン提案については、その意味をじっくり検討する価値があるだろう。なお、冒頭に、マスコミはこの論文をセンセーショナルに扱うべきではないと述べた。その理由は、一つはすでに述べたように、現実性という観点から見て、ロシア国内で重視され支持される可能性が低いからである。第2に、ロシアでは今ではカーネギーセンターのような研究所は公式的に「外国のエージェント」とされているからである。(おわり)
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