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2013-01-14 00:00
(連載)トレーニンの4島返還論をめぐって(2)
袴田 茂樹
新潟県立大学教授
このような考えの下に、トレーニン氏は今日の国際情勢の変化やロシアがアジア太平洋地域に統合される必要性、ロシアにとっての「アジアにおけるドイツ」としての日本の重要性、日露関係の質的な改善の必要性、そのためには領土問題を解決する必要があるということを説き、結論として彼は以下のような解決のステップを提案している。
(1)ロシアは歯舞、色丹の2島は、56年宣言に従ってただちにかつ完全に放棄すべきである。この宣言での合意を拒否する理由となった米軍基地の存在は、今はロシアにとって脅威ではない。(2)日本は南クリル(北方領土)からロシアにかけて、公的セクターへの投資や私的セクターへの直接投資を通じて、経済活動の支援を始めるべきである。(3)日本とロシアは、4島をカバーする、両国政府が管理する特別の経済的、法的レジームによる「合同経済地帯(joint economic zone)」を創設する。(4)日露両国は、この経済合意を尊重するような「政治的合意」をする。当初から、この4島全体は非軍事化される。ロシアは択捉、国後の主権を50年間は行使し続ける。ロシアからのこれらの島への移住も、日本人の4島での行動も自由化される。(5)50年経ったら、択捉島と国後島は日本の法と主権の下に置かれる。しかし、合同経済地帯はさらに50年間維持される。住んでいるロシア人はこの地に永住でき、日露の2重国籍が認められる。
トレーニン氏は、米国にとっては、冷戦時代と異なり、日露関係の好転に反対する理由も紛争が続くことを望む理由もない、とする。そして、むしろ日露の関係が接近することは、アジア太平洋地域の安定に寄与し、それはまた米国の太平洋戦略にとってもメリットだと見る。また、日露関係の改善で、ロシア極東の投資環境も大きく改善され、島を返還しても長期的に見るとロシアの太平洋岸にとってプラスの方が大きく、ウラジオストクは「ロシアの上海」になりうる、とも言う。
さらに日露の協力関係強化は、中国に対抗するためのものではない、と強調しながらも、急速に台頭する中国と複雑な関係にある日本にとって、ロシアとの良好な関係は、地政学的な保障となる、とも言う。もちろん、これに加え、数十年にわたる日露の領土問題の解決は、日本海、東シナ海、南シナ海の諸島をめぐる領土・領海紛争の解決にもポジチブに影響すると主張する。トレーニン氏は意識的に、彼の提言は「対中国」ではないと強調している。しかし氏の主張の背景には、また最近のロシアの日本への関心の高まりの背景には、中国ファクターが存在することは言うまでもない。(つづく)
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