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2013-01-13 00:00
(連載)トレーニンの4島返還論をめぐって(1)
袴田 茂樹
新潟県立大学教授
最近ロシアで、北方領土問題に関する注目すべき論文が発表された。モスクワのカーネギーセンターがそのサイトで2012年12月11日に公表した「太平洋におけるロシアの未来-南クリル問題の解決に向けて(Russia’s Pacific Future: Solving the South Kuril Islands Dispute)」という論文で、これは北方領土問題解決のためのユニークかつ大胆な提案である。内容を一言で言うと、「解決のためには日露双方の譲歩と、過去についての論争ではなく未来志向が必要だ」というもので、最大の注目点は、次の主張にある。つまり、「ロシアは歯舞・色丹をただちに日本に引き渡すべきだ。国後・択捉は特別の経済協力システム、法制度の下で50年先まではロシアが主権を行使するが、その後は日本に主権を渡す。さらに、その後50年は、ロシアもこれらの島に対して経済的その他特殊権益を有する」という提案である。
著者はドミトリー・トレーニン(Dmitri Trenin)モスクワ・カーネギーセンター所長とユヴァル・ヴェベル(Yuval Weber)氏である。トレーニン氏は世界的に著名なロシアを代表する政治学者である。ちなみに、氏の著書『ロシア新戦略-ユーラシアの大変動を読み解く』(河東哲夫・湯浅剛・小泉悠訳、作品社、2012年)は、わが国各紙の書評でも絶賛された。この論文は共著になっているが、電話で直接トレーニン氏自身に確認したところ、提言のアイディアは彼自身のもの、とのことである(以下、「トレーニン論文(提案)」として扱う)。また彼が、ロシアと日本の両国のメリットのために、何とか難しい問題を解決して日露関係を根本的に改善しようという熱意を有していることを、私はよく知っている。
ペレストロイカ時代の末期からソ連邦崩壊の時代、つまり1980年代末から90年代にかけて、ロシアの民主派、改革派の中には、ヤブリンスキーのように、4島を日本に返還すべしという見解を公然と述べる者が少なくなかった。しかし、近年はロシア国内でナショナリズム、大国主義の雰囲気が強まり、歯舞、色丹の2島も返還する必要はないという空気が強まっている。そのような状況の中、ロシアの有力な言論人が長期的観点からとはいえ、最終的には4島返還論を主張していることは、注目に値する。
ただ、詳細に氏の論を検討すれば様々な問題点も浮上してくる。とくにこの主張は、現在のロシア大統領府、議会、国民の雰囲気とかなり乖離しているということを、指摘しておきたい。まず、氏の提言の要点を紹介するが、その前に一言述べておきたいのは、後述の理由で、日本のマスメデイアはこのトレーニン提案をセンセーショナルに扱うべきではない、ということである。トレーニン氏は次のように述べる。日露関係の質的な改善のためには、北方領土問題の解決が必要だ。この問題は、4島返還を求める日本の公式的立場と、歯舞、色丹のみを引き渡すというロシア側の立場に関し、双方が譲歩して初めて解決は可能となる。ロシア側は、多くのロシア人が考えている以上を放棄すべきだ。日本側も、多くの日本人が期待する以下のもので満足すべきだ。両国の指導者は、この譲歩を行うために十分な支持が必要である。この問題の解決は、単に国境問題が解決されるという意味を超えて、両国のアジア太平洋地域における立場を共に強化する。(つづく)
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