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2012-12-26 00:00
野田首相の功績は甚大である
酒井 信彦
日本ナショナリズム研究所長・元東京大学教授
総選挙で自民党が大勝し安倍内閣が誕生した。この安倍内閣の誕生は、いろいろと思わぬことの積み重ねの結果であった。人間はすぐに以前のことは忘れてしまうから、ともかく記憶にとどめておこう。まず最初に、昨年8月に民主党の代表に野田氏が選ばれて、首相に就任したことである。それ以前、菅直人首相は外国人献金問題で辞任寸前であったが、東日本大震災の勃発で一命を救われ、その後居座り続けていたものがやっと交代したのである。次に今年の9月、自民党の総裁選で、安倍氏が選出されたことである。地方党員に支持が多かった石破、党の長老に担がれた石原を抑えて、議員による投票で選出された。この背景にどういう事情があるのか、いまだに明確ではないが、安倍総裁は可能性としては低かったのではないのか。
そして11月14日の野田首相が電撃解散宣言をしたことである。自民党の安倍総裁との、国会における党首討論の場で爆弾的に発言し、これによって一挙に選挙態勢に突入した。他党はもちろん自党の人間にもほとんど漏らさないで、総理の特権を振るって決行したのである。これには解散を渋っていた民主党員だけでなく、解散を執拗に要求していた野党側も驚いてしまった。その中でも最も慌てたのが、民主党を飛び出した小沢グループである。小沢グループは「国民の生活が第一」なる政党を作っていたが、急に滋賀県知事を抱き込んで、「日本未来の党」を組織した。その主張は「反原発」ただ一つ。原発事故を非常に怖がっていたと、夫人に暴露された小沢氏はともかく、ここに石原都知事とたもとを分かった亀井静香氏や、維新の会から入会を拒否された、河村たかし名古屋市長まで加入したのには驚いた。政治は結果責任であるから、政治家が離合集散することは別に否定しないが、南京事件否定派の河村市長と、阿部知子・元社民党政審会長が手を結ぶのは、いくらなんでもグロテスクな野合というものである。
この「反原発」一本で選挙をするというのは、昨年菅直人が首相だった時に企んでいたものである。菅はそれができる前に首相を退いたが、昨年の段階では成功していたかもしれない。原発事故の記憶が生々しく、マスコミの大応援もあったと思われるからである。菅元首相は、今回の選挙でそれを個人的に実行して、無残に完敗したが、結局政党の日本未来の党も同じ運命を辿った。かくて再び政権交代が行われ、安倍内閣が誕生したわけであるが、その課題は結局二つ、内政問題と外交問題である。内政問題とは経済復活の問題であり、外交問題とは中国の膨張にいかに対処するかの問題である。
ただしこの二つは、近年始まったことではなく、はっきり言って自民党が怠けて真剣に取り組まなかった問題なのである。その意味で安倍首相は、自己の前回の失敗だけでなく、自民党の長年に渡る弊政をも反省しつつ、この二つの問題の解決に取り組む責任がある。ところで現在の事態をもたらした決定的なポイントは、野田首相の解散の決断であることは言うまでもない。自らの党の没落が容易に想定される決断ができる人物は、今の政治家のなかでは、ほかにいないのではないのか。したがって客観的に見れば、野田首相の功績は甚大で、日本の政治史に残るものであろう。
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