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2012-12-19 00:00
中国のジニ係数の衝撃
池尾 愛子
早稲田大学教授
12月16日付けの本「議論百出」欄に投稿し、感想を書いたが、12月14日に開催された当フォーラム主催の第87回「外交円卓懇談会」(テーマ、日中対話:日中関係の見通し)では、中国経済に関する重要なデータも紹介され、衝撃的であった。季志業中国現代国際関係研究院副院長の冒頭報告は、「国内総生産(GDP)は発展しているけれど、中国全体は貧しい。中国はまだ発展途上国である」というお決まりの言い回しから始まったが、しかし、そこで紹介された数値は衝撃的であった。すなわち、中国国内の1億人余りが貧困層に分類されること、中国のジニ係数が0.61であることが披露されたのである。
ジニ係数については、「中国」「ジニ係数」でウェブ検索をかけると、『産経ニュース』等が10日に報道していたことがわかった。同10日の中国各紙が、西南財経大学と中国人民銀行金融研究所の共同研究に基づくジニ係数の値を一斉に報じていたのだ。ジニ係数は、社会における所得分配の平等・不平等を計る指標の一つで、0から1までの数値で表される。これが0に近いほど平等であり、1に近いほど不平等で格差が大きい。もしこれが0であれば、社会の全構成員の所得が同じであり、もし1であれば、一人が社会の全所得を独占している状態である。
民主主義・市場経済の下での経済学の教科書では、所得分配の調整は政府の重要な役割の一つであるとみなされている。社会保障制度における給付と負担、租税制度における負担の相違(累進課税制度)により、当初の所得の分布に影響を及ぼす再分配政策を実施してよいことになっている。例えば、日本の厚生労働省の「所得再分配調査報告書」(2008年)によれば、2007年の日本の当初の所得についてのジニ係数は 0.53 であるのに対して、再分配後の所得のジニ係数は 0.38 にまで減少し、可処分所得の分配はより均等化している。ジニ係数 0.4 を社会不安定化の警戒ラインとみなす専門家もいるくらいで、久しぶりに公表された中国のジニ係数 0.61 はそれを軽く突破している。
民主主義・市場経済の下で、社会の不安定化は回避されるべきである、政府が貧富の格差を是正してよい、と考えられるようになったのは、種々の歴史的経験や選挙民の声が反映されてきたのであろう。社会主義・市場経済の下では、所得分配の調整は行われないのだろうか。上記の貧困層の人口については、私の力では確認が取れなかった。私が聞き及ぶ限りであるが、中国内部には、専門家が許可を得てしか訪問できない地域、専門家以外の者には訪問許可が下りない地域がある。国際運転免許証も中国では通用しない。それゆえ、12月14日の「外交円卓懇談会」で言及されたように、内陸部に発展を待っている地域があるとしても、それには同国政府が役割を果たすべきであろう。内陸部発展のための研究を奨励したり、発展のためのアイディアを募集したりしてみてはどうだろうか。中国人達の研究力、創造力、政策力に大いに期待したいと思う。
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