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2012-12-15 00:00
(連載)エジプト革命は終わらず:国民投票をめぐる混乱(2)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
今年6月の大統領選挙の時点では、大学生らのリベラル派やマイノリティであるキリスト教徒などは、旧政権支持者とイスラーム勢力のいずれとも距離を置いていたため、新政権支持者とそれ以外の市民が対立することはありませんでした。それが決定的になったのは、憲法起草委員会でした。新憲法案を作成した憲法起草委員会は、政府や議会の構成を反映して、そのメンバーの多くがイスラーム主義者で、そこでの議論に自分たちの意思が充分反映されていないとして、リベラル派メンバーやキリスト教徒が11月30日の採択を棄権したのです。
さらに、この憲法草案の採択に先立って、11月22日にムルシ大統領は、新憲法草案の是非を問う国民投票までの期間、大統領の命令は最高憲法裁判所の司法判断を受け付けないとした「憲法令」と呼ばれる大統領令を出しました。これはいわば、大統領に無制限の権限を認めるもので、これを受けて憲法起草委員会は憲法起草の作業を半ば切り上げるようにして、採択に向かったのです。この大統領令に対してリベラル派などは「独裁的」という批判を強め、全土的に新政権支持者との間の対立が広がることになったのです。
今回の対立の激化は、「革命」後の社会にありがちな側面とともに、それを克服することの難しさを示しています。「革命」後の社会では、同質化と差異化という、相反する二つのエネルギーが充満しがちです。一体感をもって、お互いに協力すべきという考え方は非常時において強調されやすく、「革命」後に新国家を建設するとなれば、その大きさは測りしれません。だからこそ、フランス革命を初めとする歴史上の多くの革命では、国家と国民の一体性や、国民の同質性を強調するナショナリズムが鼓舞されたのです。
一方で、もともと異なる個々人を一つに束ねるのは困難です。その際、お互いの共通項を見つける一番簡単な方法は、J-J.ルソーが指摘したように、異なる第三者を発見することです。つまり、「我々とは違う者」を「我々」から識別し、排除することで、「我々」の一体性は保たれる、という思考です。しかし、これは容易に「魔女狩り」に行き着きがちです。やはり歴史上の革命では、同質性が強く求められる裏返しとして、「反革命的」な「異分子」とみなされた人々への一方的な糾弾と、ひどい場合には虐殺が横行したのです。1792年9月、革命直後のパリで、バスチーユ牢獄に捕えられていた、旧体制下の支配層で革命に批判的な100名以上の聖職者が、「監獄の清掃」を掲げて乱入した暴徒に殺された「9月虐殺」は、同質化と差異化のエネルギーが急速に結びついた時の混乱ぶりを象徴しています。(つづく)
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