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2012-12-08 00:00
(連載)北朝鮮のミサイル実験が意味するもの(2)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
今年4月のミサイル発射実験に対しては、朝鮮半島の核バランスが崩れることを嫌う中国も自重を促す立場をみせました。しかし、北朝鮮がこれを無視して実験を強行したため、その後の国連安保理での北朝鮮非難決議に中国も賛成した経緯があります。ここから金正恩体制の、中国との関係改善を目指し、さらに経済改革を進めようとする意図をうかがうことができるでしょう。その一方で、金正恩体制は、アメリカとの交渉を実質的に進める傾向をみせています。つい先日、8月にアメリカのCIA(中央情報局)、NSC(国家安全保障会議)関係者が、秘密裏に平壌を訪問していたことが判明しました。これについて『朝鮮日報』は、北朝鮮がミサイル実験に踏み切った場合、中東での混乱に加えてさらにロムニー陣営に攻撃の材料を与えることを危惧したオバマ政権が、大統領選挙の終結までにアクションを起こした場合は強い対応に出る、言い換えれば、何かアクションを起こすならその後にしてもらうよう、交渉に向かった可能性を示唆しています。真偽は不明ですが、11月の初めにアメリカ大統領選挙が終わり、約1ヵ月後に実験が発表されたタイミングを考えれば、この推測があながち的外れでないように思われます。いずれにしても、ミサイル実験をテコに、北朝鮮が最大の交渉相手とみるアメリカと直接ルートを作りつつあるとすれば、それは停滞してきた米朝交渉が本格化する糸口になるとみられます。
ただし、関係国、なかでも米中との関係改善を目指すとしても、今回の実験発表のように、北朝鮮が急激な方向転換をするとは考えられません。関係改善を目指すとなると、最初に述べたように、経済的に立場上弱い北朝鮮が相手ペースの交渉に乗らないようにするためには、交渉材料としての核・ミサイルがますます有意性をもつことになります。関係国との関係改善を図るにしても、脅すにしても、いわばメビウスの輪のように、どうしても北朝鮮は核・ミサイル実験から抜け出せない状況にあるのですが、軍内部の人事も、今後の北朝鮮が一本調子で穏健化していくことが考えにくいことを示しています。
先ほど触れた、更迭された金正覚に代わり、人民武力部長に起用された金格植・元第4軍団司令官は、必ずしも「穏健派」とはいえません。金格植が第4軍団司令官に就任したのは、2009年2月。第4軍団は、黄海にある韓国と北朝鮮の間にある境界線、北方限界線(NLL)を管轄しています。しかし、金格植の司令官就任後、北朝鮮は2009年11月に警備艇によるNLL突破と韓国軍との交戦(大青海戦)、2010年3月に韓国海軍の哨戒艦「天安」の爆沈事件、さらに2010年11月には延坪島砲撃事件を、立て続けに起こしました。その後に人民武力部長に昇格したことに鑑みれば、第4軍団によるこれら一連の攻撃的な姿勢が、その司令官であった金格植によって指導されたとみて間違いないと思われます。だとすれば、金正恩は一方で張成沢に代表される穏健派を、一方で金格植らの強硬派を、自らの両脇においていることになります。この観点から、改革を志向する勢力が台頭しているとしても、軍内部の強硬派はいまだに力をもっているとみてよいでしょう。
とはいえ、いかなる体制であれ、体制の移行や政策の転換を進めようとする際には、必ずと言っていいほど保守派と改革派の争いが生まれ、これをコントロールせずに、方向転換をすることはできません。また、落下傘式に最高権力者となった金正恩が、仮に改革志向をもっていたとしても、北朝鮮の改革をリードすることは困難です。ただし、旧体制や軍の影響力の維持を最優先にする保守派であったとしても、第4軍団司令官という必ずしも高くない地位にあった金格植を人民武力部長に据えたことは、北朝鮮首脳部からみれば恩義を与えることになります。これを金正日時代からの古参幹部を一掃したことと併せて考えれば、党に対する軍の影響力はやや低減することになるといえるでしょう。その意味で、今回のミサイル発射実験は、北朝鮮首脳部にとって、軍のなかに生まれているであろう自らの地位低下への懸念を慰撫し、少なくとも離反することがないようにするための効果があるとみられるのです。(おわり)
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