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2012-12-07 00:00
(連載)北朝鮮のミサイル実験が意味するもの(1)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
12月1日、北朝鮮は今月10日から22日の間に、北西部・東倉里(トンチャンリ)の発射場から、観測衛星「光明星3号」を運搬ロケット「銀河3号」で打ち上げると発表しました。いうまでもなく、これは「ロケット発射実験」の名目による、弾道ミサイル発射実験に他ならないわけですが、いずれにせよ北朝鮮は今年4月に発射実験に失敗しており、ミサイル実験を一年に2回行うのは初めてです。ハイペースでミサイル実験を行う背景には、何があるのでしょうか。
多くの識者が指摘するように、北朝鮮のミサイル実験には、内外に向けた二重の意味があります。一方にあるのが、対外的な「威嚇」としての側面です。経済が破綻しかかり、飢餓に苦しむ人が恒常的に数十万人もいる状況で、海外からの投資や融資、さらに援助は北朝鮮経済を立て直すうえで不可欠です。しかし、まともに協力を要請すれば、いまの体制は存亡の危機にさらされます。特にアメリカは、援助をするとなれば、民主化や人権保護を前提条件にすることは、目に見えています。その場合、体制の中枢部でいい生活をしてきた金正恩の一族をはじめ、労働党幹部や軍高官は、既得権益を失うばかりか、身の安全すら脅かされるかもしれません。体制の維持という大前提の下で、海外から資金を獲得するために、核ミサイルの保有によって立場を強めることは、周囲から反感を招くことさえ無視すれば、一番手っ取り早い手段であるのは確かです。
もう一方には、対内的な「ショー」としての側面です。現在の北朝鮮の体制を支える大きな力は、軍にあります。最高指導者といえども、その満足感を引き出さずに、自らの支配を安定化させることはできません。金正日の時代も、1993年の国防委員長就任、1998年の憲法修正にともない、「国家の最高職責」として国防委員長が位置づけられたとき、それぞれノドン、テポドンミサイルが発射されました。最高指導者と軍の関係が節目を迎えたとき、前者が後者を重視しているというアピールをするショーとして、ミサイルや核実験は行われてきました。昨年の暮れ、金正日が死亡し、その後を継いだ金正恩は、2009年に後継者に決まる以前、党にも軍にもほとんど関わりをもっていませんでした。血統による以外、その就任に何ら明確な理由がない後継者にとって、もともと力のある軍への配慮なしに、権力の座にとどまることは不可能です。その意味で、金正恩体制の下で、ミサイルや核実験がエスカレートするであろうことは、当初から予想されていたことであり、日本をはじめ周辺国は、4月と同様に、万全の警戒態勢をとる必要があるでしょう。
ただし、体制維持の前提そのものは揺るがないとしても、北朝鮮は従来と少し違う方向へ向かい始めている様子がうかがえます。まず、北朝鮮の体制内部の変化です。昨年の金正日の葬儀では、金正恩とともに、4人の軍人(李英鎬・元総参謀長、金永春・元人民武力部長、禹東則・元国家安全保衛部第1副部長、金正覚・人民武力部長)が霊柩車に同伴しました。彼らは金正日体制を支えた軍の最高幹部で、いわば金正恩の後見役とも目されていました。しかし、今年の初めから順次、公の場から姿を消し、11月末に金正覚・人民武力部長が更迭されていたことが発覚したことで、全員が一年を待たずに更迭されたことが明らかになったのです。このうち、特に李英鎬・元総参謀長は、今年4月のミサイル発射実験を主導したとみられています。金正日の「先軍政治」を主導していた4人が相次いで失脚し、それと入れ違いに勢力を伸ばしたのは、「穏健派」とみなされる張成沢・国防副委員長でした。金正日の妹・金敬姫の夫の張成沢は、やはり金正恩の後見人と目されていた人物ですが、その彼が今年8月、50人の労働党幹部を引き連れて中国を訪問し、中国商務省との間で、中朝国境地帯の黄金坪と羅先の二つの経済特別区の開発に関する管理委員会を共同で成立させることなどに合意したのです。(つづく)
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