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2012-11-22 00:00
核武装の“石原軍事政権”は戦後最大の悪夢だ
杉浦 正章
政治評論家
昔、山田洋次監督、ハナ肇主演の映画に「馬鹿が戦車(タンク)でやってくる」があった。村中から嫌われた主人公が隠してあった戦車を走らせて、村人たちを恐怖のどん底にたたき込むというのが筋だが、1962年のキューバ危機直後であっただけに、説得力があった。その映画そっくりの状況が生まれつつある。憲法破棄、核武装、徴兵制導入を主張する日本維新の会代表・石原慎太郎による軍国主義政権復活路線である。「ヒトラーになりたい」と公言し、「軍事政権を作る」とかねてから主張する石原は、まさに時代錯誤の馬鹿がタンクに乗って走り出した姿そのままだ。尖閣諸島をめぐる短絡したナショナリズムと結びつきつつあるから、始末に悪い。11月20日の日本外国特派員協会での発言は、これまでに石原が述べてきた発言からいえば、序の口に過ぎない。「いまの世界の中で核を持っていない国は外交的に圧倒的に弱い。核を持っていないと、発言力は圧倒的にない。シナは核を持って日本の領土を奪おうとしている。核兵器に関するシミュレーションぐらいやったらいいと思う」というものだが、過去の発言をチェックすれば、これは氷山の一角である。昨11年6月にはもっとはっきり核保有論の目的まで述べている。
「日本は核を持たなければ駄目だ。持たない限り一人前には扱われない。日本が生きていく道は軍事政権を作ること。そうでなければ、日本はどこかの属国になる。徴兵制もやったらいい」と発言している。臆面もない「軍事政権を目指すための核保有」である。この石原の主張は、右翼もためらうものであり、これ以上の右傾化はない。21日には「シナ(中国)になめられ、アメリカの妾(めかけ)で甘んじてきたこの日本を、もうちょっと美しい、したたかな国に仕立て直さなかったら、私は死んでも死にきれない。だから老人ながら暴走すると決めた」とも述べている。まさに反米国粋主義も窮まれりというところであり、その下品極まりない表現は、聞く者を不愉快にさせる。先に紹介したように、8月の首相・野田佳彦との会談では、尖閣問題に絡んで「戦争になってもいいじゃないか」と述べた。慌てた野田は「東京都に所有させては、戦争になりかねない」と性急な国有化に走ったのも事実だ。問題は、維新にこのタンクで暴走する異常な老人を止める者がいないことだ。止めるどころか、橋下徹もその政治姿勢はミニヒトラー的であり、徴兵制一つを取っても「勝つ為には傭兵制なんだけども、責任を根付かせる為には絶対僕は徴兵制は必要」と述べている。
維新の候補になる元宮崎県知事・東国原英夫までが「徴兵制があってしかるべきだ。若者は1年か2年くらい自衛隊などに入らなくてはいけないと思っている」と徴兵制導入論だ。この維新だからこそ、石原は安心して結びついたとも言える。問題はこうした極右国粋主義的な動きを迎え入れる衆愚の浮動層が台頭していることだ。尖閣問題を契機に、テレビでも「自衛隊や、海上保安庁に入って、日本のために戦いたい」という若者の発言が目立ち始めている。こうしたナイーブな愛国心を石原が利用する流れとなっていることだ。政界で孤立していた石原が利用できる右傾化の風潮が、戦後初めて生じているのだ。危険なのは暴力満載の劇画で育った世代が、安易に扇動され得ることでもある。しかし、憲法を破棄して、徴兵制を実施し、核武装して中国と対決する国家戦略が成り立つだろうか。遅れてきた老人石原は、世界情勢を完全に見誤っている。狂気のごとき誤判断である。核使用も辞さない米ソ瀬戸際外交は1962年のキューバ危機が象徴しているが、半世紀も前の話だ。1989年の「ベルリンの壁」崩壊以来、核保有で物事が解決できるなどという指導者のいる国は、北朝鮮とイランしかない。核保有を目指すが故に世界中からつまはじきされている国々だ。
日本が核を保有した場合どうなるか。極東は間違いなく瀬戸際の危機に陥る。中国はさびた核ミサイルを磨き直し、北朝鮮は東京、名古屋、大阪に向けた核ミサイルの発射準備を整える。当然韓国も所有する。真珠湾の経験があるアメリカは、反米の石原による核奇襲攻撃を警戒し、同盟を破棄して、日本に対峙する。政治・軍事・経済的に日本の孤立は目に見えている。核保有の石原軍事政権は、まさに平和日本が戦後初めて見る“悪夢”なのだ。石原は最初に都知事選に出馬した際、当時71歳の美濃部亮吉を追い落とそうとして、「もう新旧交代の時期じゃありませんか、美濃部さんのように前頭葉の退化した60、70の老人に政治を任せる時代は終わったんじゃないですか」と発言している。いまの石原の年齢は80歳。前頭葉は石ころのように萎縮して、歩くたびにころころ音がしているのではないか。前頭葉石化の石原を礼賛する衆愚の浮動層は、いいかげんに事態の危うさに気付くべきである。マスコミも甘い。極東のヒトラーの台頭を厳しく戒めるべき時だ。
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