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2012-11-07 00:00
(連載)南アフリカでストライキはなぜ拡散したか(3)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
無闇にストライキを行うことは、企業だけでなくその国の経済全体にマイナスの影響を及ぼすため、褒められたことではないかもしれません。まして死傷者が出るような騒ぎになるとすればなおさらです。とは言え、生活が悪化するなかで、企業はもちろん、労働組合までもが賃上げ要求に消極的な状況が鉱山労働者たちの怒りを爆発させ、さらに(ストライキ中の鉱山労働者の一部がナイフなどで武装していたという事情があるにせよ)警官の発砲で死者が出たことが、火に油を注ぐことになったことは間違いありません。いわば政-労-資の強固なトライアングルのもとで、「体制側」に回った労働組合に裏切られたという不信感と憤りが、生活苦による労働者たちの不満を爆発させたと言えるでしょう。その不満を共有しているからこそ、国内の地方や業種を越えて、ストライキが伝播しているのです。
今回の一連のストライキからは、南アフリカの政治的・経済的な変動の兆しをうかがうことができます。ANCは「反アパルトヘイト」で結集し、今の体制の基礎を作ってきただけに、所得やエスニシティにかかわらず、多くの黒人から幅広い支持を集めてきました。しかし、「白人による支配」という共通の打倒目標がなくなったいま、鉱山労働者など低所得者を支援する団体のなかには、既存の労働組合や、それと連なるANCと一線を画した政治勢力の形成を図る動きも出てきており、それがより戦闘的なストライキを主導しているといわれます。労働組合の求心力低下は、今後も同様のストライキが頻発する可能性すら示しています。
一方、ストライキの拡大を防げなかったとして、J.ズマ(Jacob Zuma)大統領に批判が集まるなか、ANC内部からは鉱山の国有化も検討すべきだという声があがりはじめています。海外の投資家に警戒感を抱かせかねない意見ですから、ANCスポークスマンは「国有化はない」と強調しています。しかし、経済が政治を動かすのと同様に、政治が経済を規定することもまた確かです。世界経済が減速し、各国が自国の利益確保に向かうなかで、今後の動向は予断を許しません。
アパルトヘイト後の南アフリカは、アフリカ随一の経済大国としてだけでなく、国内の融和に努める「虹の国」としても知られてきました。しかし、一連のストライキは、政-労-資の強固なトライアングルに支えられたポスト・アパルトヘイト体制のもとで、社会のなかの亀裂は着実に深まっていることを示しており、その混乱は主に市場への鉱物供給の不安定化を通じて、ただでさえ不透明感のただよう世界経済に深刻な負の影響をもたらすとみられるのです。(おわり)
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