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2012-11-02 00:00
(連載)対露政策を政局の具とするな(2)
袴田 茂樹
新潟県立大学教授
プーチンが北方領土問題については今日も厳しい態度を有していることはこれまでも述べたが、ここでもう一度、その要点を簡単に説明しておこう。メドベージェフと異なり、プーチンは親日的で、北方領土問題の解決に積極的だというイメージがある。そのきっかけになったのは、今年3月1日にプーチン(当時は首相)が朝日新聞の若宮主筆などと会談し、柔道用語の「ヒキワケ」「ハジメ」という用語を使って、一見前向きなポーズを示したからだ。その時の発言を朝日新聞の肝心な部分を削った報道ではなく、ロシア語の記録から考えてみよう。このときプーチンは日露間で法的に有効なのは1956年の、平和条約締結後に歯舞、色丹を引き渡すとした「日ソ共同宣言」だけだとし、そして、この宣言では2島以外の諸要求は存在しないとした。つまり、「東京宣言」で約束した4島の帰属交渉は拒否している。さらに問題なのは、朝日新聞や日本の報道機関が報じなかったプーチンの次の言葉だ。「そこ(56年宣言)には、2島が如何なる諸条件の下に引き渡されるのか、またその島がその後どちらの国の主権下に置かれるかについては、書かれていません。」
ロシアは最近しばしば、「引き渡し」は「返還」ではないとし、「引き渡し」後もロシアが主権を保持する可能性を示唆している。端的にいえば、プーチンは現在北方領土問題を本気で交渉し解決しようとする意思はまったく有していないということで、このことに幻想を抱くべきではない。現在のロシア指導部や政界の雰囲気を見れば、日本と領土問題で交渉し譲歩する空気はまったく無く、プーチン大統領といえども、譲歩する力はないということは明白だ。このことが理解できていないということは、とりもなおさず、ロシア政治がリアルに理解出来ていないということを意味する。
ではなぜプーチンは一見前向きのポーズを示したのか。それは、日露の経済関係の進展に、そして大局的には日露関係を良好にすることには強い関心を抱いているからだ。しかし領土問題に関しては、あくまでも経済関係などを前進させるための人参、ポーズに過ぎない。「この機会を逃したら、領土問題前進の機会は永遠に失われる、たとえ2島あるいは2島±αでも、今妥協すべきだ」との考えは根本的に間違っている。それは、第1に、ロシア側の状況は2島でも解決の可能性はないということである。第2に、仮に可能性があると非現実的な仮定をしても、日本の弱体政権には、そのような形で手を打って沸き上がる国内の批判を抑える力はない。
さらに、誤解を恐れずにいえば、2島か4島か、その中間案かということよりも重要な問題がある。それは、日本が国家主権の侵害に対して、それは決して許さないというしっかりした姿勢を示すこと自体が、主権国家としてきわめて重要だということだ。北方領土問題に対して、日本がそのような姿勢を示して来なかったことが、最近の竹島、尖閣問題の混乱を生んでいるということを、どれだけの日本人が自覚しているだろうか。長い目で見れば、国際関係も日露それぞれの国内情勢も、当然変化する。今日の状況が未来永劫に続くということはあり得ない。将来もし北方領土問題解決の現実的な可能性が生まれたならば、その時にこそ具体的な対応策を創造的に考えれば良いのである。その可能性がまったく無いときに、日本側からあれこれ妥協案を提案するのは、最も愚かで危険なアプローチだ。(おわり)
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