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2012-11-01 00:00
野田の新条件は「解散先延ばし」とは言えぬ
杉浦 正章
政治評論家
首相・野田佳彦の国会答弁の焦点を端的に言えば、従来からの解散3条件に経済対策第2弾を付け加えたことが、解散先延ばしかどうかの一点に絞られる。浅薄に見れば先延ばしで、衆参同日選挙などという見方に“発展”するが、そうではあるまい。野田は党内の「先延ばし論」と野党の「即解散論」の中間を狙って、微妙な球を投げているのだ。経済対策の決定を前提条件にしてもそれは11月末であり、十分「年内解散・総選挙」に間に合う。最高度の政治判断を賭けた攻防はまだ右とも、左とも断定出来る状況にはなく、継続する。自民党総裁・安倍晋三は、今さら自らの病気引退を本会議で陳謝することはなかった。これから大げんかを始めようとするときに、謝っていては勢いが削がれる。しかし質問の内容はポイントを突いていた。「潔く国家国民のために一刻も早く信を問うことこそが、今や最大の経済対策。一度、解散を約束した政権は、その存在自体が政治空白だということを肝に銘じてもらいたい」と、野田の“急所”を突いて、早期解散を迫った。これに対して野田は、2度にわたって解散に言及した。
まず最初は「解散近し」を思わせた。「先の党首会談で『近いうちに国民に信を問うと申し上げた意味は大きく、環境整備をしたうえで解散を判断したい』という話をしたが、これは特定の時期を明示しないなかでの、ぎりぎりの言及だ。環境整備の中でも急がなければならないテーマとして、赤字国債発行法案や衆議院の1票の格差、定数削減の問題、それに社会保障制度改革国民会議を挙げているが、条件が整えば、きちっと自分の判断をしていきたい」と述べたのだ。本会議場は「おう」という声で反応した。あきらかに解散に踏み込んだととれる答弁だからだ。しかし野田はこの反応を見逃さなかった。このままではまずいと判断したのだろう。答弁の最後の方で「来月中をめどに、日本再生戦略の実現や東日本大震災からの復旧・復興に資する第2弾の経済対策をまとめるよう指示を出している。このような経済状況への対応も含め、やるべきことをやり抜き、環境整備を行ったうえ、解散を判断していきたい」と前言を修正するように新条件を付け加えたのだ。
この発言から野田の“心理状況”の推移を分析すれば、まだいずれにしても「言い切る段階は時期尚早」ということであろう。党内は離党者が続出して、その防止策に懸命だ。恐らく答弁で疲れ切っているのに、夜は前日に引き続いて若手議員らを公邸に招いて慰撫工作をしている。野田は離党防止と法案成立の2正面作戦を強いられているのだ。民主党内は解散先延ばし論が圧倒的だ。重要ポイントは野田がそれをストレートに反映した答弁をしていないことだ。解散をするつもりがないなら、年末の日ロ首脳会談に言及したり、よりストレートに否定出来る状況である。経済対策第2弾を追加したことは、決定が11月末であることを考えれば、解散の大幅先延ばしには結びつきにくい。首相が今ここで解散に言及したらどうなるか。もう政界は野田など見向きもしなくなる。一挙に求心力は失せ、総選挙一色となるのだ。野田が本当に「きちっと自分の判断を出す」のなら、党内を最後まで引きつけつつ、土壇場で解散を決断するしか策はないのだ。自民党が「解散小僧」のように朝から晩まで解散を言い続けても無理なのだ。
だから自民党は、たとえ“食い逃げ”の可能性がわずかでもあっても、それを承知で“賭け”に出るしか手はない。審議拒否や法案人質化の北風作戦出なく、太陽作戦で解散への最後の内堀を埋めるのだ。3条件を早期に実現させてまず条件を整えるのだ。赤字国債発行法案は自治体が苦境に陥り、処理は急を要する。自治体の借金の利子は結局国民の血税から払わされる。これ以上成立を先延ばしにすれば、矛先は確実に自民党に向かう。定数是正も「0増5減」の自民党案を可決させればよい。もとより国民会議の設置は3党合意事項だ。本来なら公明党が赤字国債早期成立を唱えるべきところを、人質に取った主戦論を唱えて足並みに乱れを生じさせている。公明党は自らの選挙に跳ね返ることを考えるべきだ。いずれにしてもここは早晩、自公は環境整備を整える流れに向かうだろう。そうなれば野田は、退路を断たれる。退路を断たれれば、自らの発言通り「環境整備をしたうえで解散を判断したい」というところに落ち着かざるを得まい。野田が幹事長・輿石東をチヤホヤしている背景には、日本の政治の原点「味方もだまして事をなす」というところが垣間見えるのだ。味方をだますくらいだから、マスコミは軽くだまされる。しかし社説などでマスコミが共通しているのは「条件が整えば解散すべし」だ。条件が整ってもさらに野田が公党間の約束を破り、国民を裏切れば、支持率は限りなくゼロに近づく。野垂れ死にの道をたどるだけだ。
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