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2012-10-23 00:00
(連載)フリーダム・ハウスの警告にみる日本の世界政策(1)
河村 洋
外交評論家
昨年、チュニジアとエジプトでフェイスブックを通じた若者のネットワークがアラブの春を引き起こし、長年にわたる中東の民主化の夢が動き出したことは、非常に強烈な印象を世界に与えた。しかしフリーダム・ハウスは“Freedom in the World 2012”と題する報告書で「世界全体、中でもアジア、ラテン・アメリカ、南部アフリカを中心に民主主義が後退している」と警告を発している。専制国家が台頭する昨今、これは由々しき問題である。中国は東アジア圏での拡張主義に何の躊躇も示していない。ロシアではウラジーミル・プーチン大統領が「USAIDは今年の大統領選挙で反体制派の票が増えるように画策した」として国外退去を命じた。そしてイランは核兵器を入手しようとしている。こうした民主主義の後退は世界の中での日本の立場を危うくする。そこでグローバルな情勢を概括し、日本が採るべき道を模索したい。
まずフリーダム・ハウスの報告書より、民主主義をめぐる世界的な動向を述べたい。チュニジア、エジプト、リビアで民主化が進展した一方で、シリア、バーレーン、イエメンでは市民運動への弾圧が盛んに行なわれていると述べられている。よって、テロとの戦いが始まってから世界の安全保障の重要課題となっている中東の民主化は、大きな壁に突き当たっている。また中国とロシアでは政府のプロパガンダによって市民の抵抗運動への恐怖感が扇動され、ジャスミン革命の波及が食い止められている。中国は世界でも最も巧妙なメディアの抑圧によって報道規制と情報検閲を行なっている。ロシア、イラン、ベネズエラといった他の専制諸国も様々な手段を通じてメディアやブログを規制している。
このように記された好ましからざる動向に対し、現在のところ西側同盟はそうした状況を座視するのみである。しかし専制政治に回帰しようとする世界的な傾向を逆転させられるのは、日米欧をはじめとする主要民主主義国である。圧政体制に抵抗して自由を求める活動家達は、西側同盟が民主化の希望を犠牲にして矮小なリアリズムと宥和政策をとることに失望している。フリーダム・ハウスのレポートに記された内容に鑑みれば、こうした活動家達の主張には理がある。世界の民主化の進展を考えるうえで、鍵となる地域は中東である。フリーダム・ハウスはチュニジア、エジプト、リビアの変動を肯定的に評価しているが、いずれも民主主義の基盤は脆弱である。また、アメリカとヨーロッパの保守派の中にはシャリア法の施行に端的に見られるようなイスラム主義の台頭を懸念する向きもある。
しかし、チュニジアのモンセフ・マルズーキ大統領は9月27日付けの『ニューヨーク・タイムズ』への投稿で、「アラブの春は反欧米でも親欧米でもない」と述べている。また宗教もシャリア法も問題ではなく、社会正義こそが重要だという。マルズーキ氏は民主化によって過激派が自由な政治体制を悪用できるようになったことは認めている。しかし、宗教過激派の真の目的は、政治参加ではなく混乱の助長であると強調している。過激派はアメリカの象徴を攻撃するより先に、チュニジアの国旗や国歌という自国の象徴を攻撃しているとマルズーキ氏は指摘する。同論説に対し、イスラム主義者が近代啓蒙思想という普遍的な価値観をどこまで尊重するかは注意深く見守る必要がある。しかし、マルズーキ大統領の論文に注目すべきなのは、ある国での社会正義がその国の国際舞台での行動に大きな影響を与えるからである。西側同盟の再強化によって専制国家の台頭に備える必要があるのは、まさにこのためである。テロとの戦いの重要目的の一つは民主化の促進によって統治の改善をはかることであり、それによって暴力と過激思想の根を絶とうとしていることを忘れてはならない。(つづく)
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