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2012-10-21 00:00
政権維持は国民に対する背信だ
尾形 宣夫
ジャーナリスト
民主、自民、公明3党の党首会談が決裂した。野田政権は29日に臨時国会を召集すると決めたが、国会が機能するとはとても思えない。自公の「年内解散要求」をにべもなく蹴った後だ。政権が「さあ国会を開きましょう」と言ったところで自公が「そうですか」と乗ってくるはずもない。党首会談に先立つ3党の幹事長会談で、輿石幹事長が「首相から具体的な提案があるでしょう」と言ったのだから、野田首相から「年内解散の言質」があると思うのは当然だ。ところが首相は、「公債法案」や「衆院の一票の格差是正」への協力を要請しただけで解散の時期には具体的な回答を避けた。要するにゼロ回答である。2カ月前の自民・谷垣総裁(当時)との差しの会談で、首相は「近いうちの解散」を約束し消費増税を柱とする社会保障と税の一体改革関連法案を成立させた。
ところがその後の首相の言い分は、「当面の課題」を理由に解散に触れることを避け、来年度予算編成にまで意欲を示す豹変ぶりだ。自公両党ならずとも怒るのは当たり前だ。一体改革関連法が成立した後に、野田政権は一体何をやったというのか。「一票の格差」問題は衆院に続いて参院についても最高裁から違憲状態だと断を下されたのに、自民の「0像5減」法案をろくに検討もしなかった。先の国会で赤字国債発行法案が廃案となって、地方自治体が首を長くして待っている地方交付税の交付ができなくなるなど予算執行ができない深刻な事態になっている。それに加えて第3次改造内閣で入閣した田中法相の、箸にも棒にも掛からない唾棄すべき所業である。法相の辞任は時間の問題だ。法の番人たる法相に、噂が取りざたされていたこんな不適格な政治家を首相は任命した。政治家が責任あるポストにふさわしいかどうかをチェックする、俗に言う「身体検査」以前の問題である。
野田政権発足以来、閣僚の入れ替えが頻繁だった。人材不足などというレベルの話ではない。「最善、最強の内閣」が問責決議を受けたり、立場をわきまえない発言が政権幹部から度々飛び出した。およそ、国政を担うにふさわしい人事が行われたとは言い難い。首相の統率力、任命責任は問われなければならない。もはや、野田政権は政権の体をなしていない。昨年夏の民主党代表選で、注視する国民に向かって彼が強調したことは、「金魚のような美しさではなく、ドジョウのように泥臭く」愚直に政治に取り組む、だった。「先送りする政治」を反省して「決める政治」「決断する政治」を公言した。ところが、彼が言う「決める政治」とは、一体何を指すのか。TPP、原発再稼働、普天間、オスプレイといった国論を二分する難問を、十分な論議、検証もせずに「決めた」ではないか。そのどこに「ドジョウのような泥臭さ」があるのか。
野田首相が就任した時、かつて松下政経塾で首相を教育した江口・元PHP研究所長(参院議員)は「首相になるのは10年早い」と語ったし、国会論議では首相に対し「7番打者が4番を打つようでは試合に勝てない」と言い渡した。今さら、どこでどう間違ったかなどと言っても詮ない話だ。その任にふさわしくない人間が、出来もしない正論を振り回して国政を引っ張ろうなどと思うこと自体が、国民に対する背信である。このままでは、臨時国会が始まっても混乱は避けられない。首相の責任感が見えないままの国会ではまともな論議も期待できない。政局の現状の混乱の責任は首相にある。首相の思考停止が直らないのなら、政権内部から直言、戒める動きが現れなければ救いはない。総選挙になれば民主党の惨敗必至だが、それを恐れて国民生活を人質に取ることは、もっと罪深い。
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