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2012-10-16 00:00
(連載)チャベス四選から貧困と民主主義を考える(2)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
ただし、チャベスが尊重する民主主義は、「多数者の意志に基づいて統治する」という、いわば「剥き出しの民主主義」です。歴史に名高いフランス革命では、「革命の遂行」という目的のために、少数者の人権は事実上無視されました。「反革命的」とみなされた人間は粛清の対象となり、貴族や教会の財産も没収されました。「多数者による支配」が何より優先される「剥き出しの民主主義」のもとでは、「多数者」に属さない「少数者」の生命、財産、安全などの権利が無視されることも珍しくありません。
チャベスの場合も、自分に敵対的なメディアや裁判所を「多数の人々の意志から外れたもの」として扱い、その独立性を奪っています。しかし、それは国民の多数派によって承認されてきました。「民主主義に基づく『独裁者』」を支えているのは、世界第五位の原油埋蔵量に裏付けられた資金力です。チャベスは豊富な原油収入をバラまいて貧困対策を進めることで、多数派である貧困層からの支持を集めてきました。その過程で、石油収入を担保に中国から400億ドルの財政資金融資を受けるなど、危うい経済政策も稀ではありません。一方で、貧困層の優遇や経済への規制が、従来からの階級間対立に拍車をかけていることは、想像に固くないのです。
今回の選挙では、野党連合のカプリレス・ミランダ州知事が終盤に追い上げ、チャベスの得票率は54.42パーセント。一方のカプリレス候補は44.97パーセント。これまでにない、僅差での勝利でした。ここから、チャベスの人気に陰りが見え始めたと指摘されます。その場合、チャベスが膨大な国庫支出を湯水のように用いて支持を集めるこれまでの方針を改め、内外の投資を積極的に呼び込んで筋肉質の経済体質を作ることで、高・中所得層にまでウィングを広げることができれば、五選も危うくないことでしょう。しかし、人気に陰りがみえたとき、核となる支持者にこれまで以上に配慮するのが、政治家の一般的傾向です。その意味では、今後「21世紀の社会主義」がますます進展し、その結果財政が肥大化することも予想されます。最悪の場合、「国民を救うために国家が破綻する」ことすらあり得ます。
貧困や格差といった問題は、完全に克服することは難しいとしても、政府が率先して取り組むべき課題です。また、多数派の意志が尊重されなければ、少数者が物事を一方的に決めるエリート主義に陥ります。ただし、歴史を振り返れば、フランス革命にせよ、ナチスの台頭にせよ、社会経済的な不満を抱く多数派、なかでもそれまで政治的発言の機会に乏しかったサイレント・マジョリティの声のみを錦の御旗にして突き進む危険は、いくらもあげられます。多数者の意志をもってしても奪えない少数者の権利や自由が保障されない限り、民主主義は最も凶暴な政治体制にすらなり得ます。既存の政党や高・中所得層に対する貧困層の不信感や憎悪をかき集め、それに基づいて独裁的な権力を保持するチャベスのベネズエラは、現代における「社会問題の改善と民主主義の両立」という、歴史的な課題を写し出す舞台になっていると言えるでしょう。(おわり)
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