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2012-10-15 00:00
(連載)チャベス四選から貧困と民主主義を考える(1)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
10月7日、中南米のベネズエラ大統領選挙で、現職のウゴ・チャベス大統領が四選を決めました。チャベス大統領は、国内では「21世紀の社会主義」を掲げ、主要産業の石油関連企業をはじめ企業の国有化が進められ、それに基づいて低所得者向けの住宅建設などを推進することで、貧困層からの厚い支持に支えられています。その一方で、2003年の国連総会演説でブッシュ前大統領を「悪魔」と呼び、さらにはイラン、中国、ロシア、北朝鮮などとも連携を深める、中南米随一の反米派として知られています。昨年、がん治療のためにキューバの病院に入院しており、健康不安説も飛び交うチャベスの四選がなるか。今回の選挙は、これまで以上に国際的な関心を集めていましたが、結果的には西側先進国の期待に反して、チャベスが勝利したのです。今回の再選により、「物価統制や企業の国有化がさらに進む」、という見方があります。10月9日、チャベス四選を受けて、ベネズエラ国債が四年ぶりに大幅安になったことは、投資家の懸念を表すものです。
その一方で、今回の選挙結果におけるチャベスの勝利は、ベネズエラ国民が「民主主義に基づく独裁」の継続を選択したことを意味します。チャベスのもとで進んだ企業の国有化で、政府による企業管理が強化されるにつれ、高・中所得層などの不満が募り、それにともなって政府批判の急先鋒になった民間メディアが規制されるようになりました。2007年、チャベスに批判的な民放テレビ局RCTVの免許更新が認められず、政府が新たに設立したTVesにその周波数が割り当てられたことは、その象徴です。一方で、2009年の国民投票で大統領の三選を禁止する憲法条項が撤廃されたことにより、チャベスの個人支配は強化されました。いわばチャベスは有権者に選出された「独裁者」なのです。
批判的な勢力を強権的に抑え込みながら、それでも選挙で勝ち続けてこれた最大の理由は、チャベス大統領が人口の多い貧困層の支持を一手に集めてきたからです。チャベス登場以前のベネズエラでは、富裕層と中所得層、言い換えれば資本家と労働組合間の階級間闘争が政治の中心で、各政党は両者のうちのいずれかを主な支持基盤にしていました。しかし、基本的には企業の正職員でなければ労働組合に加入できないため、都市のインフォーマル・セクターで働く人(つまり法律で保障される正規雇用ではない労働者)や、地主のもとで働く小作農(中南米では大地主制が残っているため、他の地域より貧富の格差が全般的に大きい)は、人口で多数派を占めながらも、既存の政党にその声が届かず、政治的な発言の機会はほとんどありませんでした。「サイレント・マジョリティ」だった貧困層の代弁者として登場したのが、チャベスだったのです。
チャベスは陸軍少佐だった1989年にクーデタを起こし、規制緩和や「小さな政府」を推し進めていた、当時のペレス政権の打倒を試みました。しかし、クーデタは最終的に失敗。ただ、クーデタが「貧しい人々のためのもの」だったという主張が貧困層の共感を呼び、刑務所に収監されたチャベスの釈放を求める運動にまで発展します。1994年に釈放されたチャベスは政治に向かい、1998年に大統領選に立候補して当選。以来、チャベスは一貫して貧困層の支持を集めて権力を握り続けてきたのです。つまり、チャベスは「既存の政党や政治家から相手にされていない」と感じる多くの人々に焦点を絞ることで、政治的に成功したと言えるでしょう。シリアのアサドなどと比較すると、チャベスの場合は少なくとも普通選挙で選出されており、さらにインターネットなどの通信をブロックしているわけでもありません。また、チャベスが進めた1999年の憲法改正によって、大統領を含む公職に就く者に対する解職請求の制度が整いました。したがって、チャベスが一概に民主主義を否定しているとはいえません。(つづく)
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