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2012-09-19 00:00
尖閣問題:今最も深刻に捉えるべき事態とは
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
尖閣諸島をめぐっては、日本による国有化宣言の後、中国国家海洋局所属の海洋監視船「海監」が尖閣周辺の海域の領海侵犯や接続水域への立ち入りを繰り返したり、中国・浙江省から漁船団が尖閣沖に約1000隻の規模で押し寄せる動きを見せたり、そして、中国国内では反日デモが暴徒化の様相を見せている。これらは、確かに、重大な問題には違いない。領有権問題のある海域では、まず漁船が押し寄せてきて、続いて、中海上保安当局の艦艇がそれを護衛する名目で進出してきて実効支配を強める、あるいは相手国の実効支配を崩していくという、いわゆるサラミ戦術をとるというのは、南シナ海でも何度も目にしている、中国の常套手段である。しかし、尖閣の場合、「海監」や「漁政」といった監視船による示威行為は今に始まったことではなく、中比間でのスカボローをめぐるにらみ合いなどとは異なり、我が国の海保の能力は高く、中国の圧力に直ちに屈するようなことは考えられない。
漁船団の問題は、今回に関して言えば、むしろ、中国の中央政府が地方組織を掌握しきれなかった結果と考えるべきである。すなわち、漁業当局の浙江省における組織は、大規模漁船団の出漁を許可したが、これは中央の許可を得ずにした、跳ね返り的なものである可能性が高い。漁船が今のところ実際に押し寄せてきていないのは、そういう事情があるからであろう。考えてみれば、1000隻もの漁船がいっぺんに押し寄せてくれば、中国当局のコントロールが利かなくなる可能性が高く、そんなことを許すとは想定し難い。結局、領土問題が存在しないとしている日本側の立場に対して、挑発して、何とか国際化しようという、中国側の意図が最大の問題である。そして、その意図について、今や最も深刻に捉えるべき事態は、監視船による侵犯ではなく、中国当局が尖閣を、国連海洋法(UNCLOS)に基づき、領海(したがって排他的経済水域も)の基点とする海図を国連に提出したことである。
中国外交部は、「UNCLOSが規定する義務を履行し、釣魚島の領海、基線を公布するためのあらゆる法的手続きが完了した」と言っている。これにより、我が国はもはや単に「領土問題は存在しない」という原則論だけを繰り返しているわけにはいかなくなった。国際法という「戦域」において、尖閣をめぐる「日中紛争」が本格化したことは疑いようもない。中国が仕掛けてきた「法律戦」を受けて立たなければならない。UNCLOSは、海洋に関する紛争を平和的に解決する手段として、海洋法裁判所、国際司法裁判所(ICJ)、仲裁裁判所、特別仲裁裁判所の4つを定め、いずれか一方の当事国の要請により、強制的にこの4つのいずれかの受け入れ、なおかつ拘束されることを定めている(拘束力を有する決定を伴う義務的手続き)。ただ、UNCLOSは、境界画定に関しては、「拘束力を有する決定を伴う義務的手続き」の例外であるとしている。すなわち、ICJと同様に両当事国の同意がなければ、裁判は開かれないということである。
中国がUNCLOSに基づいて裁判の実施を求めてくるかは分からないが、そういうことになった場合は、我が国は、応訴する方向で考えてしかるべきであろう。さらに、賛否が分かれることとは思うが、UNCLOSが定める紛争手続きの規定に則って、我が国の方からから提訴するという選択肢も、必ずしも排除される必要はないのではないか。尖閣をめぐる「法律戦」に備えるためには、我が国は、尖閣を実効支配していることを世界に向けて明らかにすることが肝要である。尖閣における生態系の調査や環境調査、気象観測、海保や海自の艦艇・艦船が停泊できる港の整備などが望まれる。尖閣をめぐる歴史的事実の広報も、今まで以上に、効果的かつ活発に行われる必要がある。もちろん、尖閣をめぐる「紛争」は国際法の空間にとどまるものではない。島嶼防衛能力の向上と日米のさらなる連携強化が必要であるのは言うまでもない。尖閣の戦略的意義は、これを取られれば、沖縄全体や台湾が危機に瀕するということであり、それは結局、我が国が危機に瀕することに他ならない。あらゆる手段を動員して事態に対処する必要があるが、「法律戦」という要素の比重が増したことを、まずよく認識すべきであろう。
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