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2012-09-18 00:00
中国に尖閣で“軍事衝突の度胸”はない
杉浦 正章
政治評論家
米国防長官レオン・パネッタは9月17日に「尖閣諸島についてのアメリカの政策は明確で、我々は、当然ながら条約義務を遂行する」と表明した。この尖閣への安保条約適用発言は、むしろ中国政府に向けたものだ。「軍事行動に出るな」と強くけん制しているのだ。中国は国内のデモを容認し、漁船1000隻を尖閣周辺に押しかけさせ、露骨な対日圧力を展開しているが、これを日米相手の武力衝突にまで発展させる度胸はない。したがって、18日のデモを潮時に、10月半ばの政権交代の共産党大会に向けて、事態の収拾・沈静化を図るだろう。日本政府も、国民も、過剰反応する必要はない。中国政府の国内対策の“お手並み”と、かえって政権が自分で自分の首を絞め、窮地に陥らないかどうかを“望見”すればよい。パネッタは訪中を前に日米安保条約上の義務を果たす方針を表明すると同時に、「主権が対立する紛争では、どちらか一方の肩を持たない」とも表明した。当事者同士の紛争解決が基本だというのであり、これは仲介者の立場だ。米国にしてみれば中国をけん制しつつも、米中戦争に発展させる意図はない。あくまで日本列島、沖縄、尖閣諸島、台湾、フィリピンと続く第1列島線で中国の進出を抑止する基本戦略を維持し続けるのだ。
安全保障は天から降ると考える一部のマスコミと国民は、尖閣防衛と対中抑止力のためのオスプレイ配備に反対しているが、いいかげんに国際関係の現実とその厳しさを認識し直せと言いたい。政権交代期で、かってなく政治的な動揺を来している中国共産党政権は、とりあえず野田の尖閣国有化閣議決定をチャンスととらえ、政治混乱のエネルギーを尖閣問題に転じさせようとしている。国家主席・胡錦濤は9日の野田との立ち話会談で、尖閣国有化に強く警告したといわれている。それにもかかわらず11日に野田が国有化の閣議決定をして、国内的には面目丸つぶれとなった。それがデモ容認と、かつて南沙諸島で成功した1000隻漁船団による対日脅迫戦術の展開に直結しているのである。1000隻も“出撃”させれば、なかには“暴発船”も出る事が予想されるが、日本側の対応を見極めて“政治介入”の隙を作ろうとしているのだ。狡猾と言えば狡猾だが、見え透いていると言えば見え透いているのだ。
中国政府内部は政権移行期であり、裏舞台での政争は激化の一途をたどっている。国家副主席・習近平が15日まで2週間にわたり姿をくらませるという異常事態まで発生している。パネッタは18日に国防相・梁光烈、19日には習近平と会談する予定だ。18日は、くしくも満州事変の発端となった柳条湖事件当日であり、バネッタは半ば官製デモの旋風が吹き荒れる事態を目の当たりにすることになる。当然尖閣問題での中国側の自制を求めることになろう。パネッタは日中双方に沈静化を促す事実上の仲介者となることが確実だ。こうした状況下において、中国側が尖閣を政治利用することはあっても、軍事行動に出ることはまずあり得ない。中国政府にとって何より困るのは、共産党政権への不満となって跳ね返ることだ。デモをあおり続ければ貧富の格差を起点とする国内暴動に発展しかねない。デモ隊が毛沢東の写真を掲げ始めたのは、昔の平等社会から現在の不平等社会への不満が驚くほど広がっていることを物語っている。
官製デモもコントロールできているうちはいいが、できなければ共産党一党独裁批判へと向かうのだ。まさに政府によるデモ扇動は両刃の剣に他ならない。共産党大会に向けて、中国政府は収拾を図らざるを得ないであろう。日本政府はひるむべきではない。領海内侵犯は阻止することはもちろん、先鋭化した“活動家漁民”の上陸も一切許してはならない。短慮で馬鹿丸出しの核武装論者・石原慎太郎が火をつけた尖閣国有化路線に乗った以上、政府はここで1歩も引き下がることはできなくなった。日本政府は、南沙諸島のケースは対日戦略では通用しないことをはっきり示すべきだ。野田は、国連演説で尖閣問題を主張し、中国の理不尽な行動を国際社会に訴えることに及び腰だが、どうせすぐに政権を去るのだ。最後くらいは国のためになることをすべきだ。中国は勝手に定めた領海基線の海図などを国連に提出、国連も受理している。中国は、国連の場でも尖閣諸島の領有権を主張する外交攻勢に出るものとみられる。それにもかかわらず野田は国連演説で反論も、主張も、宣伝もしないというのでは、首相たる資格はない。考え直すべきだ。
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