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2012-09-04 00:00
始まった“維新叩き”の焦点は「橋下不出馬」
杉浦 正章
政治評論家
横浜の地下鉄で大学生らしい青年の政治談義を聞くともなく聞いていたが面白くて、真剣に聞いた。「民度が大阪並みとは思われたくない」「中田は横浜の街を歩けないから、維新に行くんだ」という話に及んで、思わず笑いたくなった。それはそうだろう。「知性と粋(いき)が売り」の浜っ子にしてみれば、“ハシズム”丸出しのテレビタレントみたいな橋下徹の維新の会などに投票したくないのは当然だ。維新に大接近している前横浜市長・中田広は確かに市財政に借金だけ残して、任期途中で市長職を投げ出した。意外と維新ブームと言っても大阪周辺だけに絞られ、上滑りするかも知れない。それよりも自民党は元首相・安倍晋三の目指す維新との連携だけでは、ねじれは解消できないという重要なポイントを忘れてはなるまい。折から政界でも、選挙が近づいて橋下批判がせきを切ったように広がり始めた。自民党総裁選も絡んだ路線論争へと発展しそうな空気だ。政界は今まではあまりの橋下人気に、障らぬ神にたたりなしを極め込んでいた。海の物とも山の物ともつかない不気味さを感じていたのだろう。しかし、選挙近しとなれば、背に腹は代えられない。本音を出さざるを得ないのが実情だ。
民主、自民双方から批判の声だ。橋下も「雉(きじ)も鳴かずば撃たれまいに」で、その発言を真剣に聞けば聞くほど、「偽物」の感じが濃厚になってきたのだ。囃すのは一番「民度」が低い民放テレビの政治ショーばかりだ。維新の会の公約も維新八策などと仰々しくタイトルをつけたが、さっぱり訴えるものがない。首相公選制、参院廃止などはまさに机上の空論だ。何も目玉がないと思ったか橋下が、思いつきで衆院議員の定数の半減を入れた。ところがこの「定数半減」が橋下叩きのきっかけになった。まず自民党幹事長・石原伸晃が「バナナのたたき売りではない」と、批判の先頭を切った。大衆迎合の神髄みたいな削減策である。これも「民度」最低のテレビのコメンテーターだけが囃しているが、常識ある国民は皆首をかしげるのだ。次に総裁選立候補の前政調会長・石破茂が著書で叩いた。「国難、政治に幻想はいらない」の中で「幻想を振りまく政治とは決別すべきだ」と切って捨てたのだ。民主党政調会長・前原誠司も「橋下市長の人気に乗じて、政治経験のないような人がいっぱい出てきて、国会で議席をとったら、この国の政治はどうなるのか」と訴えた。大阪府知事・松井一郎が懸命に反論しているが、テレビメディアでは後の祭りとなる。反論すれば、最初の指摘を繰り返し報道せざるを得ない。露出度において勝ることになる。このようにテレビが使わざるを得ない批判を絶えず露出させることが、何よりも必要な状況となってきているのだ。
確かに石破が指摘するように、橋下は重要国政課題で幻想を振りまき続けている。原発再稼働で倒閣宣言を出したかと思うと、実態がようやく分かったののか、再稼働を容認。消費増税絶対反対を唱えていたかと思うと、消費税推進での民・自・公3党合意を賞賛。重要ポイントで180度の転換である。これは自らがタレント弁護士として、テレビで「うける」発言を繰り返していた“本性”の露呈である。テレビではタレントはキャッチフレーズで生きている。視聴者の関心を一瞬でもいいから引くか引かないかの勝負の場なのだ。どんなテーマでも、それに乗って、一言「洒落たこと」を言えるかどうかで「なんぼ」の世界なのだ。それを国政の場に持ち込もうとしているのが橋下なであるが、さすがに大阪市民はだませても、国政の場はだませない。国政では言葉は重いのだ。それに、橋下は維新新党の党首になるというが、これだけ政治を批判し、煽りにあおっておきながら、自らが総選挙に出馬しないとはどういうことか。責任ある政治家なら当然維新の会の先頭に立つべきなのに、なぜ立たないのか。立つに立てない弱みでもあるのか。コスプレ不倫を上回る問題でもあるのか、と疑いたくなるのである。朝日新聞も9月4日付の社説で「国政は片手間で出来るような仕事とは思えない。説明して欲しい」などと手厳しく批判し始めた。
こうした橋下に大接近した元首相・安倍晋三も、総裁選に手を挙げたのをきっかけに、一緒に批判の対象となっている。元官房長官・野中広務は2日のテレビで「あまりに安倍君はみっともない。どこか狂っているのではないか。一度でも総理をやった人間が、何だか訳の分からん人間と人気があるからと言って連携するのは、重大な問題を引き起こしかねない」と口を極めて批判している。安倍にとって総裁選には相当のダメージだろう。というのも維新と組むか、民・自・公路線を進めるかは総裁選での大きな論点となる気配だからだ。総選挙の分析は、今のところ自民倍増の流れはあるものの、公明と組んでも過半数に達しないとの見方が強い。その場合、民・自・公3党合意における「国民会議」構想を軸として協力体制構築の必要が出てくるのだ。副総理・岡田克也は「場合によっては総選挙前にも話を進める必要がある」と述べている。重要ポイントは、自民党が維新と組んでも、実は意味がないのだ。民主党と組まなければ、参院での過半数割れのねじれは解消できず、総選挙を経ても、またまた不毛の対立で何も出来ない政治が“復元”するだけなのだ。したがって、路線論争はする前から安倍の負けであり、民・自・公路線を基調とすることが正しいのだ。政治の最重要ポイントは、総選挙後に参院のねじれ解消が出来るかどうかにあるからだ。
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