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2006-09-04 00:00
中印協力はアジアの平和と安定にとって有益だ
森下義孝
会社員
中国とインドはアジアの二大大国だが、多くの相違点や類似点を有するなかで、近年はその相違点に捉われることなく、類似点に着目して相互補完関係を促進しようとしている。これはアジアの平和と安定の上から歓迎すべきことであると考える。その理由を以下に述べる。
先ず両国の違いに目を向けてみよう。特に目立つのは国民性の違いである。インド人はマハーバーラタやラーマーヤナのような文学的価値が高い長大な叙情詩を残しているが、その歴史はぽっかりと空いた穴のようで、極端に言えば殆ど具体的な歴史的な出来事の記述がない世界である。「零」を発見したような抽象的思考に秀でている国民性は、元来具体性の象徴である記録を好まないのであろう。ところが中国はまさに反対の世界である。司馬遷の史記を嚆矢とし、中国人は極めて記録好きな国民である。特に「青史」に良き名を残すことは、歴代の帝王、指導者が心がけてきたことである。インド人は哲学志向、抽象性を好む国民、中国人は実学志向、具体性、記録を好む国民である。現に儒教の中心的存在である論語は極めて明快に政治、人間関係の要諦を説いた書物であり曖昧さがなく、合理的な思考法に立っている。他方インド哲学やヒンズー教は融通無碍で、神秘性に満ちており、奥が深い哲学、宗教と言われる。タゴールやガンジーの思想と毛沢東思想を比べれば違いはより一層はっきりしてくる。インドと中国の違いの第二は現在の政治制度である。インドは10億の人口を抱え世界最大の民主主義国と称されているように、多数の少数民族とカースト制を抱えながらも普通選挙を実施し国民の人権保障に意を用い、民主主義を着実に進展させている。これに反し中国は経済は自由化しているが、政治的には依然として共産党の一党独裁下にあり、国民の基本的人権は制約され、普通選挙などの民主主義的手続きが実践される可能性は当面少ない。
これらが主な違いであるが、共通点もある。その第一は、中国が13億、インドが10億という巨大な人口を有し、面積も広大な大国であることである。第二は、かかる巨大な人口を抱えつつ、両国共にここ数年来高度の経済成長を記録していることである。2005年でインドは年率8,4パーセント、中国は同じく9,9パーセントである。第三は、その急速な経済成長に必要なエネルギー源を求めて両国ともに地球的規模での資源獲得外交を展開しているか、しつつあることである。既に中国はアフリカ、中南米など従来関係が薄かった地域の国々と活発な資源外交を展開している。インドはイランからパキスタン経由でインドに至る石油パイプラインの建設を計画している。
両国は上記のような相違点、類似点を有しており、冷戦時代をつうじて犬猿の仲にあったが、近年は相違点に捉われることなく、類似点に着目して相互補完関係を促進しようとしている。中国はインドが情報産業で成功を収めていることに着目し、その成功の経験から学ぶために、多数の技術者をインドに派遣し、技術導入を図っている。同様にインドは中国が達成した低価格生産方式とそれによる輸出拡大のノウハウを取り入れるべく、中国との情報交換を進めようとしている。このように両国は、相互の相違点よりも類似性を強調して協力関係を進めている。かかる友好的な雰囲気の下でかっての中印国境紛争は最早考えられない出来事になってしまった。我が国としてもアジアで巨大な地位を占める両国が友好関係を増進し、共に発展の道を歩むことはアジアの平和と安定の上から歓迎すべきことである。インドが経済発展を通じて東アジア地域で重みを加えてくることは、この地域で既に大きな存在感を持つ中国とのバランスを図る意味でも評価される。日本として今後インドの発展と中印関係の動向をいっそう注意深く観察してゆく必要があると考える。
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