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2012-08-27 00:00
民主党は「原発ゼロ」で“衆愚”にすり寄るのか
杉浦 正章
政治評論家
民主党が「期限を設定しない原発ゼロ」を目標とする基本方針を固め始めた。これまで提示されている2030年までの原発比率にこだわらないという。いわばゼロはゼロでも自然死のゼロだ。背景には国会終盤に向けて元首相・菅直人などの離党を食い止めようという意図がみえる。これ以上の離党者を出せば、自民党が提出を検討している内閣不信任案が可決される情勢に立ち至るからだ。加えて総選挙向けの“擬態”がある。総選挙の主要テーマは紛れもなく原発問題であり、街頭でいかに「ゼロ発信」ができるかどうかが、党勢を左右すると見ているのだ。おりから米国の研究機関が「日本が二流国に陥る危険」を指摘して、原発推進を促しはじめた。たとえ将来の話しでも、党利党略の「ゼロ」は、世界的潮流に逆行した原発自然死路線である。自然死の産業に有望な人材は集まらない。領土問題で日本を取り囲む中・韓・ロ3国の「馬鹿ではないか」という高笑いが聞こえる。これまで政府は、新たなエネルギー政策に盛り込む2030年時点の原発比率で「0%」、「15%」、「20~25%」の3案を提示して、落としどころは15%と考えていたようだ。ところが、何ら科学的根拠もない討論型世論調査なるもので、原発ゼロが46.7%と全体の半数近くとなったことが明らかになった。
首相・野田佳彦以下「これではゼロにしないと、選挙惨敗どころか、壊滅になる」(政府関係者)と震え上がったのだ。落選必至の議員、とりわけ菅グループなどから離党をちらつかせた「ゼロ圧力」がかかり始めた。菅グループの動きを察知した自民党は一事不再議の慣例を無視した不信任案上程の動きまで検討している。慌てて野田は、デモ代表との面談に菅を同席させたり、「エネルギー・環境問題調査会」の顧問に菅を据えるなど懐柔策に懸命だ。野田は何とか「ゼロ」を前面に出せないかと考えた揚げ句に、「原発をゼロにした場合の課題の検討」を指示したのだ。最初に期限を切らない案を思いついたのが、経産相・枝野幸男だ。8月9日に「そもそも2030年で線を引くと決めているわけではない」と微妙な発言をした。2030年の期限は、もともとエネルギ基本計画が2030年までなので設定しただけで、何の根拠もない。その伏線の上に今度は政調会長・前原誠司が、8月24日の「エネルギー・環境調査会」初会合で「原発を新設しないことが前提だ。2030年にこだわる必要はない。党として独自の案もありうる」と発言したのだ。明らかに政府・与党は具体的な年限を設定せず、原発ゼロに向けた工程を検討していく方向を重要な選択肢としようとしている。党内対策と選挙対策の両面から、何としてでも「ゼロ」の言葉を入れたいのだ。
既に政府は原発を40年で廃炉にする計画を立てており、現在建設中の島根と青森の原発の稼働を考慮すれば2050年代前半にはすべての原発が止まる計算になる。だから「期限をつけないゼロ」で当面をしのごうというわけだ。しかし、この苦し紛れの「原発自然死作戦」を国民が信用して、民主党に投票するかといえば、そう甘くはない。それどころか、いったんは原発再稼働に動いて財界や判断力ある国民の支持を受けた野田の信用が一挙に失墜する恐れがある。いまさら原発反対票が取り込めると思ったら、大間違いなのだ。いまや、原発推進ですくと立つている党幹部は政調会長代行・仙谷由人くらいのものとなった。有り体に言えば、既に野田政権は下野必至のレームダック政権であり、国家の命運を左右するエネルギー政策の独断を控えるべき立場にある。おりから、いつも日米の間に立って、どちらかというと日本の立場を理解して対処してくれている、米超党派の有識者による「第3次アーミテージ・ナイ報告書」が発表された。この中で、日本の原発問題に関する提言は、第3者のものであるだけに客観的で極めて興味深い。同報告は「日本は一流国であり続けたいのか、それとも二流国になることに甘んじるのか」と鋭い問題提起をしている。
すなわち、「(1)原子力はゼロエミッション(排出ゼロ)の唯一の基幹発電であり続けるべきだ。(2)原発の廃止は、日本の原油、天然ガス、石炭の輸入を激増させることになる上、国内産業を海外に移転させ、国家の生産性を脅かす可能性がある。(3)新興国が原発建設を続けているところ、日本の原発廃止は、責任ある国際的な原子力開発を阻害することになる。(4)中国が原発輸出の国際競争に参加しようとしており、世界が効率的で高信頼性の安全な原子力発電を求めているのであれば、日本が遅れを取るわけにはいかない。(5)日米両国は福島の教訓を正しく捉え、世界の先頭に立って、安全な原子炉の設計や適切な安全規制を推進していくべきだ。(6)日本の包括的な安全保障にとっても、安全でクリーンな原子力発電は必須であり、原子力の研究開発に関する日米協力が不可欠である」などと提言している。要するに、「世界の常識」はここにある。この「世界の常識」が野田政権の非常識になりつつあるのだ。国内でも、一般国民の認識が足りない。身近な例でいえば、原発ゼロは月1万円の電気代を支払う家庭で4000円から1万1000円の値上げとなる。失業者は200万人から300万人に達する。廃業となる企業が続出する。「死にゆく産業」に集まる人材はなくなる。東芝、日立、アレバの3社が原発製造で世界の最先端を走る現状から日本勢が脱落し、アレバの独走となる。先端技術開発が売りの日本は、その活力を喪失する。要するに、ノーテンキなマスコミに操られて、うるさい夏のセミのように「ゼロ、ゼロ」と合唱する“衆愚”に国政は踊らされるべきではない。
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