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2012-08-20 00:00
(連載)パワー・シフト時代における米欧同盟の再強化(1)
河村 洋
外交評論家
オバマ政権の登場によって、イラク戦争以来のアメリカとヨーロッパの埋めがたい分裂は癒されると期待された。ブッシュ政権のカウボーイ外交に嫌悪感を抱いたヨーロッパ人にとって、バラク・オバマ氏は待ち焦がれた救世主であった。ノルウェーのノーベル平和賞委員会はオバマ氏が大統領に選出される以前に授賞を決定していた。しかしオバマ政権の下でアメリカとヨーロッパの関係が改善し、大西洋同盟は強化されたのだろうか?皮肉にもオバマ氏は大西洋同盟の深化にそれほど熱心ではない。オバマ氏は従来からの同盟国よりも新興諸国の方を重視している。
オバマ政権にとって、パワー・シフトの時代の国際問題に対処する上で、米欧同盟こそが世界の平和と自由民主主義の礎であるというわけでもないようだ。オバマ外交がヨーロッパ人をどれほど幻滅させたのだろうか?ブレア政権の政策顧問であったマーク・レナード氏は『フォーリン・ポリシー』誌電子版への7月24日付けの投稿で、オバマ氏の大西洋外交が抱えるパラドックスを論じている。
2008年の大統領選挙の際にオバマ氏がベルリンを訪れた時には、アメリカに多国間外交重視、平和志向、福祉重視、しかも雄弁な指導者が登場したことに、ヨーロッパ人の圧倒的大多数が喜び勇んだ。ジョージ・W・ブッシュ氏のカウボーイ外交とアメリカ特別主義に、ヨーロッパの指導者と市民は嫌悪感を抱いていたからである。一見するとアメリカとヨーロッパはイランとシリアをめぐって良好な協力関係にあり、イラク戦争をめぐっての分裂は収まったかのように見える。しかし表面的な印象とは裏腹に、オバマ政権の下では国際政治の力の中心が欧米からアジアに移りつつあるとの認識が高まっている上に、大統領自身のパーソナリティーも加わり、大西洋同盟の結束は弱まっている。
アメリカ側から見ると、オバマ政権は西側諸国との同盟強化よりも、中国、インド、ブラジルといった新興諸国とのパートナーシップ構築を重視している。オバマ氏は、国際機関においてヨーロッパ諸国が実態以上に決定権を持ち過ぎているとみており、このことが多国間外交でアメリカの国益を損ねていると考えている。これはレナード氏が上記投稿の文中で引用した「かつてのヨーロッパ列強からアジアの新興諸国に力を再分配するというやり方でアジア諸国を支援し、世界の力の構造を是正する方がアメリカの国益にかなうと思われる」というウォルター・ラッセル・ミード氏の発言に顕著に示されている。オバマ政権の視点からみると、「価値観の共有などは、アメリカにとってこれまでほどの重要性はない」ので、ヨーロッパが対米関係で中国、ロシア、アジア新興諸国よりも圧倒的に優位な地位にあるとは言えなくなっている。(つづく)
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