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2012-07-30 00:00
(連載)懸念されるシリア・アサド政権の大量破壊兵器使用の可能性(1)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
世界の眼がロンドン・オリンピックに向かうなか、シリアでは凄惨な内戦がさらにエスカレートしています。7月20日以降、政府軍はダマスカスとアレッポの二大都市に兵力を集中させ、戦闘機やヘリをも用いて反体制派を攻撃しています。そしてさらに問題なのは、23日にシリア政府が化学兵器や細菌兵器の保有を事実上認め、「外国の軍事介入があった場合」に使用する可能性を示唆したことです。
広く知られるように、毒ガスが兵器として初めて使用されたのは、第一次世界大戦でした。その後、1925年のジュネーブ議定書で、戦争における生物・化学兵器の使用は禁止され、シリアも1968年に同議定書を批准しています。しかし、その製造が容易なことから、特に化学兵器は「貧者の核兵器」とも呼ばれ、シリアがイスラエルやアメリカを念頭に、抑止効果を期待する戦略兵器としてこれらを保有しているという噂あるいは見解は、以前からあったものでした。実際、シリアは生物兵器の生産や保有を禁じた生物兵器禁止条約(1975年発効)は未批准、化学兵器の開発、生産、貯蔵、使用を禁じた化学兵器禁止条約(1997年発効)は未署名です。よって、シリアはこれらの大量破壊兵器の生産や保有を禁じる国際条約に縛られることはないので、保有を認めたこと自体は噂の正しさを裏付けるものだったといえるかもしれません。とはいえ、その使用を禁じるジュネーブ議定書は批准しているのですから、それに反してまで使用する可能性を示唆したことは、深刻に受け止めるべきでしょう。
シリアが今回の内戦で生物・化学兵器を使用する危険性は大きいと思われます。第一に、「外国の軍事介入」が欧米諸国の軍隊を指すと限らないことに注意すべきでしょう。シリアの内戦には、周辺諸国もかかわっています。シーア派の一派であるアラウィー派が中心のアサド政権自身が、やはりシーア派中心のイランからの支援を受けている一方、長年アラウィー派支配に敵意をもってきたスンニ派中心の反体制派は、これまたスンニ派のサウジアラビアなど富裕な湾岸諸国から資金援助を受けています。それだけでなく、自由シリア軍は欧米諸国に逃れている亡命シリア人団体からも支援を受けています。これらを指して、「外国(欧米や湾岸諸国)政府からの支援を受けたテロリスト」と呼ぶことで、「シリアの文脈」では生物・化学兵器の使用が正当化される危険性は、充分にあります。
第二に、アサド体制のもつ特徴が、生物・化学兵器の使用をより容易にしやすいと考えられます。これまでに何度か取り上げてきましたが、アサド大統領は父・ハーフェズの意向で急遽、後継者に据えられたため、軍や情報機関を統制しきれない「細腕の『独裁者』」です。例えが適切でないかもしれませんが、いわば中央から派遣されたキャリア警察官が地方の警察署の署長に据えられながら、その実質的な権限は生え抜きの副署長などに握られているのと、ほぼ同じです。軍事作戦の主要な、実際的な判断は、軍や情報機関が行っているとみた方がいいでしょう。(つづく)
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