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2012-07-10 00:00
(連載)うたかたの夢としての「1バレル80ドル」(2)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
サウジアラビアは4月、生産量を日産1000万バレルに大幅に引き上げ、これが原油価格の下落を招いたとして、アルジェリアやベネズエラなどから批判を招きました。6月14日、OPEC(石油輸出国機構)の総会では、加盟国全体で日産3000万バレルの生産目標が合意されましたが、この目標値には強制力がなく、サウジアラビアの生産体制は変化しないものとみられます。原油価格の下落はサウジアラビアにとっても経済的な打撃ですが、他方で最も深刻な影響を受けているとみられるのは、イランです。イランに対しては、各国が既に原油の輸入制限を行ってきました。しかし、4月までの1バレル130ドル以上という原油価格が、輸出量減少をある程度補ってきたとみられています。ここにきて原油価格が下落したことは、輸出量が今後さらに減少すると見込まれるイランにとっては、死活問題です。
イランは核開発問題だけでなく、シリア問題に関しても欧米諸国と対立しています。一方、サウジアラビアは1970年代から、最大の顧客であるアメリカをはじめ、欧米諸国と友好関係にあるだけでなく、イスラーム過激派を支援するイランやシリアとは相容れない関係にあります。つまり、サウジアラビアの増産体制は、欧米諸国による対イラン経済制裁への側面支援の効果をもっているのです。のみならず、サウジアラビアの増産による原油価格の押し下げは、シリア問題をめぐる反欧米勢力のもう一つの旗頭、ロシアに対する圧力にもなります。OPECに加盟していないロシアは、OPECの生産量や価格に縛られず、より安価な値段設定を行えることで、2000年代に入って販路を拡大してきました。しかし、OPEC加盟国産の原油価格が下落すれば、それらの諸国以上の減収という事態にも見舞われます。ここでもやはり、サウジアラビアの増産は、欧米諸国を支援する役割を果たしているといえるでしょう。
ただし、サウジアラビアも無制限に増産を続けることはできません。ロイターの報道では、西側外交筋の話として、「サウジアラビアは90ドルを下回る水準でも数ヶ月は耐えられる」と伝えられています。逆に言えば、それを過ぎれば、再び以前の水準にもどる可能性が大きい、ということです。さらに問題なのは、経済制裁の影響が食糧や日用品の価格高騰といった形で、イラン市民の日常生活にも大きな影響をもたらしてきている、ということです。経済制裁は両刃の剣です。必要な物資を枯渇させることで、その対象となった国の対抗心を萎えさせることができると考えられる一方、場合によっては物資の窮乏が市民レベルで制裁実施国に対する敵対心を増幅させ、一致結束させる危険性もあります。太平洋戦争の直前、アメリカが原油や鉄くずの輸出を禁止したことが、結果的に日本の暴発を招く直接的な契機になったことは、その典型例です。つまり、経済制裁の本格化が即座にイランに態度を変えさせる効果を発揮できるかは不透明で、そこに価格下落の影響が加わったとき、イランが「窮鼠猫を噛む」方針に打って出ることも、あながちないとは言えません。シリア国内にとどまらず、中東で大規模な戦闘がはじまった場合、原油価格が高騰することは避けられません。
サウジアラビアは当面、増産体制によって原油価格を押し下げる方針を維持するとみられます。しかし、一方でそれがイランのフラストレーションを高める側面は否定できません。いわば、サウジアラビアが増産に耐え切れなくなるのが早いか、イランが経済制裁と原油安に耐え切れなくなるのが早いか、という二つの導火線に火がついた状態といえます。しかし、いずれにせよ、原油価格が現在の水準で長期間推移するとみることはできません。年内、遅くとも1年以内には、原油価格は従前の水準に戻るであろうことだけは確かといえるのです。(おわり)
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