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2012-07-09 00:00
(連載)うたかたの夢としての「1バレル80ドル」(1)
六辻 彰二
横浜市立大学講師
震災後の日本では、それまで等閑視されてきた多くの問題・課題が俎板に乗ることが増えましたが、エネルギー問題はその典型例の一つです。7月1日の関西電力大飯原発再稼動を目前に、官邸前での15万人規模のデモや各電力会社の株主総会での脱原発を求める声が耳目を集めていますが、一方で海外に目を転じれば、この10日ほどの間に、世界のエネルギー事情を左右する情勢に目まぐるしい変化が生まれています。6月21日、アメリカ原油先物相場CLc1で1バレル80ドルを割り込みました。これは2011年10月以来、約8ヶ月ぶりのことです。2005年頃から原油価格が100ドル前後で高止まりすることが多くなったことからみれば、これはかなりの下落といえるでしょう。この価格下落には、いくつかの要因があげられます。信用不安に対する懸念から来るヨーロッパでの需要下落、それに引きずられたアメリカや新興国での景気減速と需要落ち込み、さらに最大の産油国であるサウジアラビアが欧米諸国からの要請に応じて増産を続けてきたこと、などです。
原発の存続の是非をめぐって国論が二分し、さらに外部の要因で歴史的な円高に輸出産業が苦しむ状況からすれば、この原油価格の下落は一服の清涼剤といっていいかもしれません。しかし、この状況がしばらく続くかは不透明で、場合によってはすぐに反動がくるものとみられます。しかも、その反動の幅は、これまでになく大きなものになる可能性すらあります。最大の不安材料は、イランへの経済制裁です。核開発を続けるイランに対する制裁を目的として、アメリカで昨年末に成立した国防権限法の対イラン制裁関連条項が6月28日に発効しました。これにより、イラン中央銀行と取り引きのある金融機関はアメリカ金融機関とのドル取引きを大幅に制限されることになり、イランに対する経済制裁が本格化されました。6月28日までに日本を含む17の国・地域が、イラン産原油の輸入削減などの取組みと引き換えに、適用対象から除外されましたが、28日には中国とシンガポールも適用対象から除外されました。
これはつまり、アメリカによる対イラン経済制裁に、中国も協力することを余儀なくされたことを意味します。また、7月1日からは、EUも猶予期間を経て、イラン産原油の全面禁輸に踏み切る構えです。イランはOPEC原加盟国で、世界で五指に入る原油の埋蔵量を誇ります。イラン産原油が国際市場に出回ることが難しくなる以上、供給の減少が少なからず価格の上昇圧力になると見込まれます。シリア情勢の悪化も、これに拍車をかけています。シリアでは首都ダマスカスでも大規模な軍事衝突が発生するに至り、6月26日にアサド大統領が「シリアは真の内戦状態」にあると宣言しました。UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)は、シリアから逃れる難民は、既に脱出したひとを含め、今年中に約18万人にのぼるとの見通しを示しています。シリアの人口が約2000万人ですから、全人口の約1パーセントが国外に逃れる状況は、まさに異常事態です。
関係国がシリア問題を議論するために6月30日にジュネーブで開催される「連絡グループ会議」では、アメリカ側の要望を反映してイランの参加が見送られたものの、ロシアや中国がアサド大統領に退陣要求を出すことを拒絶する立場を示すとみられています。シリアでの武力衝突が今後拡大すれば、中東一体の不安定化という懸念(投資家にとっての期待)から、原油相場への資金流入が促されるとみられます。その一方で、原油価格を押し下げた一つの要因であるサウジアラビアの増産が今後も継続するとみる向きもあります。もともと、原油価格が下がりすぎることは、産油国にとって望ましいことではありませんが、上がりすぎても需要の減退を招きかねないため、産油国にとって必ずしも好ましいこととはいえません。サウジアラビアは最大の産油国として、生産量を調整することで世界の原油価格をある程度コントロールする、「スウィング・プロデューサー」と呼ばれる役割を果たしてきたのです。しかし、今回の増産は、必ずしも原油価格だけを睨んだものともいえません。(つづく)
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