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2012-07-03 00:00
(連載)米政府にモノが言えない政権の実体(2)
尾形 宣夫
ジャーナリスト
宜野湾市長の佐喜真にとって――県にとっても同じだが――、事はさらに深刻だ。2004年8月、普天間飛行場が一望できる場所にある沖縄国際大学のキャンパスに米軍の大型ヘリが墜落、炎上した。夏季休暇中で幸い地元に人的被害はなかったが、現場一帯は人口密集地で、一歩間違えば大惨事だった。3カ月後、私が所属する日本自治学会の研究会・総会が同大で行われた。事故現場を見たが、焼け爛れた大木、焦げた研究棟は事故のすごさを想像させるに十分だった。同大での事故が浮き彫りにした重大な問題は、日本側の捜査機関が事故調査、現場検証をほとんどできなかったことだ。事故直後から米軍側が封鎖線を敷き、日本側の立ち入りを拒否したのである。 仮にオスプレイの配備が強行され事故が起きた場合、同大での墜落事故と同じ状況が再現されないという保証はない。しかも、オスプレイの訓練区域は沖縄だけでなく本土各地で計画されている。オスプレイ問題は、沖縄に限った問題ではないことを忘れてはならない。
オスプレイ問題は、飛行訓練ルートとなる関係自治体を巻き込んでさらに広がることは避けられない。そういった事態が想定されるが、野田政権に具体的な対応策はない。「法的に配備を断ることはできない」と副総理の岡田は語っが、その神経たるはなんなのか。全く沖縄の基地問題が分かっていない。知ろうともしていない態度だ。確かに日米安保条約に基づく地位協定で、在日米軍の装備に日本側が拒否権を持つわけではない。岡田はそう言っているのだが、これほど国民を不安がらせている問題を、「法的に、協定上」というだけで処理することを国民は納得しない。「不都合な真実」に目をつぶって「日米同盟の深化」を得々と語る野田政権の政治感覚は理解を超える。
前述のように「米軍が何でも持ち込めるというのは信じられない話」と言った仲井真の胸の内は、「(普天間は)最低でも県外移設」と言って県民を踊らせ、そして失望させた民主党政権に対する強烈な不信感である。しかも、地位協定を盾に「知らぬ顔の半兵衛」を決め込んだら、沖縄県は政権とはまともに取り合わなくなるかもしれない。悲しいかな、現政権には、そういった危機感はまるでない。山口県知事の二井も「なし崩し的にかたをつけようとする、非常に姑息な考え方」と、岩国基地での一時配置計画を批判した。沖縄県、山口県のいずれもが持つ政権不信の根っこにあるのは、在日米軍のあり方についての政権の確たる意思が見えないことである。野田政権のあからさまな対米追従ぶりには驚かされるが、誰が考えても必要な事前の「根回し」がないまま、事が頭越しに進んでいるのは、TPP(環太平洋経済連携協定)参加問題でも見られる。
今さらオスプレイの軍事的有用性を説く森本防衛相の感覚もいただけないが、森本を待ち受けた各知事、市長は「何をしに来た」と言わんばかりの応対だった。テレビで見る限りは、緊張しっぱなしの防衛相だった。特に、沖縄県庁での会談を終えた森本に、仲井真は両手を広げて「どうぞお帰りを」といった風に見送った場面がすべてを物語っていたのではないか。学者・評論家大臣が、急に政治家になろうとしても無理だということである。森本は自他共に認める安保・防衛問題の専門家である。考えること、言うことは民主党政権ではなく、自民党政権の論旨を披瀝してきた。それが野田政権の人材不足、人事の不手際で、急きょ招かれ入閣したのだが、周囲の見る目は「識者」の域を出ない。解説、展望を語らせれば説得力はあるが、高度な政治判断を求められる「外交・安保」の責任者としては無理がある。野田政権は分裂目前である。政権自体が上を下への大騒ぎだ。そうした状況の中でのオスプレイ問題は、政権の不確実さをさらに印象付けた。民主党政権の宿命と言ってしまっては、国民は救われない。(おわり)
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