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2012-06-23 00:00
(連載)NATOシカゴ首脳会議と米欧同盟の今後(2)
河村 洋
外交評論家
防衛能力だけが問題ではない。米欧間の防衛協力は新しい時代に合わせて進化してゆかねばならない。NATOのジェイミー・シェイ副事務局長補は、リビア・モデルが効果的な役割分担の規範となると主張する。そのためには「有志の国が戦闘に従事し、他の国は兵站、専門的支援、同盟共通の資金を提供する。さらに軍事力を削減する時勢にあってもNATOが国際情勢に関与し続けるべきだ。ハードウェアの研究開発と役割分担の他に、政策協議と情報共有ネットワークを発展させねばならない。この目的のためにはサイバー防衛の能力も強化が必要である。これらと並行してドイツからは米軍2個旅団が撤退する現状に鑑みて、ヨーロッパはアメリカへの依存も低めねばならない」と言う。シェイ氏は防衛能力のギャップを埋めるためのヨーロッパからの動きとして、「欧州共同開発のガリレオ衛星と英仏共同の無人機開発計画」を挙げている。また「ミサイル防衛ではヨーロッパはアメリカ製の迎撃ミサイルに依存するとしても、レーダーを自分達で作ることはできる」という声も挙がっている。
実際にヨーロッパの同盟国の殆どはアメリカの安全保障の傘に「ただ乗り」している。国防費がGDPの2%という指針をこえているのは5ヶ国に過ぎない。国防に消極的なヨーロッパの中ではイギリスへの評価が高いのは、「イギリスの国防費はGDPの2%を超え、ヘリコプター、戦闘機、空母、潜水艦といった主力兵器に予算を注ぎ込んでいる。またアフガニスタンへの派兵規模はアメリカに次いで第2位である。さらにアフリカでも国際警察軍の重要な一翼を担っている」からである。しかし、ロイター通信5月22日付けの論説では逆に、「イギリスやドイツのような経済大国が軍事力を縮小させていることが、西側同盟に大きな影響を及ぼしている」と報じている。またNATO内部からは「リビア紛争では英仏主導のヨーロッパ多国籍軍は、攻撃作戦の目標設定の殆ど全てと燃料の85%をアメリカに依存していた」との指摘も挙がっている。このことはアメリカとヨーロッパ同盟諸国の防衛能力の格差がきわめて大きいことを意味している。
オバマ政権の新戦略はNATOにも影響を与えるかも知れないが、強固な大西洋同盟があってこそアメリカがアジアに集中できる。NATO自身もグローバル化が進む課題への対処のために、オーストラリアやニュージーランドといったアジア太平洋諸国との安全保障のパートナーシップを必要としている。また「スマート・ディフェンス」が貧弱な防衛力の言い訳になってはならない。安全保障に挑戦を突きつける勢力は技術的に追い上げている。中国はA2/AD能力を向上させ、イランも核開発を手がけている。NATOとヨーロッパ大西洋圏外のパートナー諸国はアメリカの圧倒的な技術的優位にただ乗りするばかりでなく、自らもそうした脅威に立ち向かう取り組みをすべきである。そのような安全保障環境の中で西側民主主義諸国は同盟を刷新してゆく必要がある。
現在、NATOは加盟国と責任範囲をさらに拡大すべきかどうかというジレンマに立たされている。イギリスのデービッド・キャメロン首相は世界の安全保障に積極関与するNATOを構想しているが、チェコのアレクサンドル・ボンドラ国防相は「加盟国や防衛地域の拡大よりも、NATO内での共同防衛」を主張している。シカゴ首脳会議ではアメリカはヨーロッパに対して「安全保障の消費者ではなく、生産者になるように」と要求した。NATOが担う西側民主主義同盟の中枢という役割は、アメリカの悪意なき無関心とヨーロッパの軍事的意欲の低下によって損なわれる可能性がある。同盟の再強化には何らかの手段を講じる必要に迫られている。国際安全保障の学徒にとってシカゴ後のNATOからは目が離せない。(おわり)
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