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2006-08-21 00:00
米国政府の慎重な対応こそ望まれる
野村晃彦
会社員
英国から米国に向かう10機の旅客機を爆破させるという恐ろしいテロ計画がこの8月10日に発覚しました。幸い、英捜査当局が米国とパキスタンとの連携によって容疑者を摘発しました。その直後、ブッシュ米大統領は「イスラムのファシストと戦争状態にあることを強く想起させた」との声明を出しましたが、これにより今後はイスラム教徒の反発が予想されます。テロ防止に国際社会は今こそ結束を強めねばならないときだけに、米国政府に慎重な対応を望みたいと思います。この点で対照的なのは、英国政府の対応です。2005年7月7日のロンドン地下鉄同時多発テロでは、英国民は日常を取り戻すのに多くの時間を要しませんでした。意外に早い悲劇からの復活に、英国人はテロに打たれ強いなどの見方が広まったものです。今回のテロ未遂事件は、その英国政府が水面下でテロ対策を粛々と進めていたことを物語っていますが、冷静で簡単にはへこたれない英国人の気質のようなものを改めて感じました。
英国政府によれば、ロンドン地下鉄同時多発テロの教訓から、過激派指導者は国外に追放しながらも、国内のイスラム社会とは対話を進め、国家を挙げてのテロ対策を進めてきたといいます。政府機関と国民の間の情報伝達がスムーズにいくような仕組みや全住民を対象にしたIDカードの導入推進など、国民による捜査協力の体制を強化してきたと言われます。事実、治安強化とテロ対策に関するイスラム系住民の協力は、今回の捜査活動にあたっても不可欠だったと言われます。地下鉄同時多発テロが起きてからは、イスラム過激派の温床となっていたロンドン・フインズベリー・モスクでは、穏健派の宗教指導者がテロリスト逮捕に協力するように信者に呼びかける動きもあったそうです。また、当時の報道によれば、ハマス、ヒズボラなど過激派グループからもテロへの非難声明が出ていたとされます。このような背景があってか、今回のテロ未遂事件の摘発直後においても、英国政府は国内のイスラム社会との対話と協力を強調していました。
しかし、ブッシュ米大統領は冒頭の声明に見られるように、今回のテロ未遂事件にあたり、米国は「イスラム主義組織と世界的規模の“戦争状態”にある」という従来からのスタンスを再び強調しました。こうした姿勢は当然のようにイスラム世界の反発を呼ぶものと考えられます。9・11同時多発テロ後に行った世論調査(英紙ガーディアンと民間調査機関ICM)では、英国民の88%はブレア首相のテロ対策を支持し、米国の対テロ報復攻撃を支持する66%を上回りましたが、米国民の大半は、おそらく米国とテロ勢力との戦争よりも、手抜かりのないテロ対策を望んでいるのではないでしょうか。英国政府のイスラム社会との対話路線は米国中心の世界秩序に対する英国の挑戦であるとするのは、飛躍しすぎかもしれませんが、イスラム教徒の間に鬱積する反米意識の高まりは、次なるテロを誘発させる危険性があるので、米国政府の慎重な態度が求められると考えます。
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