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2012-06-04 00:00
「話し合い解散なし」説で小沢の大幅譲歩か
杉浦 正章
政治評論家
「一期一会」と1回だけの会談を位置づけていた首相・野田佳彦がなぜ元代表・小沢一郎と二度目の会談を行ったかだ。そこには、ひとえに党分裂・離党の道を回避したいという小沢サイドの思惑が垣間見える。このままだと両者激突のまま分裂へと動きかねない状況を避けたいが故に、小沢は野田に内閣改造を是認し、対野党協議を了承し、記者団に党分裂を否定したのだ。消費増税法案での物別れは事実だが、実態は小沢にとっては屈辱的ともいえる大幅譲歩であるはずだ。その背景には幹事長・輿石東による「話し合い解散なし」での説得があるという。野田のかってない意気込みは30日の第一回会談で示され、輿石も分かったはずなのだが、動きが依然小沢の“代貸し”的で、野党の神経を逆なでし続けている。しびれを切らした野田が、6月1日、輿石を呼び、相当強く決意を述べたといわれる。内閣改造もまず「輿石切り」から始まりかねない雰囲気であったという。輿石は憮然として記者団に「コメントしない」と八つ当たりしたほどだ。この野田の“覇気”は第2回会談に先立って小沢にも伝わり、小沢にとっても譲歩せざるを得なくなったのが実態だろう。というのも、四面楚歌の小沢にとっては「分裂・新党」につながる路線は、選挙の敗北で自ら破滅を選択するのと同じである。小沢は政局で破れかぶれ的な対応をまずしない男なのだ。
この観点から会談を見れば、第2回野田・小沢戦の実態は、じりじりと野田が小沢を土俵際まで追い詰めた形となった。野田が「自民党との協議はしっかりやらなければいけない。協議は進めさせていただく」と述べたのに対して小沢は、「首相の意向で協議しようというのは当たり前のことだ」と容認。本来なら消費増税法案に反対だから、その実現に向けた与野党協議にも反対するのが筋だが、折れた。「明日内閣改造を行う」と述べたのに対しては「首相の判断だし、それはよろしいではないか」と、自らのグループの閣僚更迭も了承した。会談後野田は記者団に「小沢氏の意向を踏まえて消費増税法案を修正するということはありえない」とダメ押しの一言を付け加えた。小沢は物別れであるから当然記者団から離党の可能性を聞かれるが、「そんなことは考えておりません。私自身が先頭に立って、国民のみなさまに訴えて、そして任された政権ですから」と否定した。
いま「輿石切り」や「小沢切り」に踏み込まれては、とても対応しきれないという輿石の判断が背景にある。輿石は明らかに軟化し、会談に先立って、与野党協議と改造を認めるように小沢を説得したのだ。野田にフリーハンドを与えないと、何をするか分からないという危機感もあったのだろう。輿石は、自らの根回しによる小沢の譲歩で“決別”の事態がとりあえず回避できたのがよほど嬉しいと見みえて、「党を割っていいと思うものは3人の中で1人も居ない」と胸をはった。輿石は野田から受けた心証を基に、「話し合い解散なし」で小沢を説得した気配が濃厚だ。小沢グループ幹部は小沢の譲歩に「野田が早期解散なしを示唆したのかも知れない」と見る向きもいる。「それでなければ小沢さんの譲歩はありえない」という。野田は「首相は解散と公定歩合だけはうそをついてもよい」という、首相官邸に伝わる“秘伝”を使ったのかも知れない。しかし、野党に漏れればすべてが壊れる。極秘で表に出さない話しであったかも知れない。そう見ると、小沢がとってつけたように「話し合いは平行線」と強調したのもあやしい。いずれにせよ小沢は、現時点での最終対決を見送り、決着を消費増税法案採決の場に移行させた形だろう。
こうして野田は、自民党との消費増税法案をめぐる協議に入ることになる。そのために問責2閣僚ばかりか、在日中国大使館の元1等書記官が農林水産省の事業に関わったと指摘されていることを踏まえ、農水相・鹿野道彦と、弁護士報酬を巡って追及している法相・小川敏夫らも交代させるという。“大盤振る舞い”だ。これにより自民党の要求している問責閣僚交代、小沢との決別、最低保障年金撤回、早期解散のうち、閣僚交代は満額回答。「小沢切り」は7割方達成したことになった。最低保障年金は自民党が「国民会議での協議」を主張しており、野田も前向き姿勢を示している。問題は解散の言質を自民党に与えるかどうかだ。これは世論の動向や自民党内事情を確かめた上での対応となるだろう。野田にとっては最後の切り札であり、やすやすと切るわけには行かない。自民党側も谷垣の解散要求一点張りの強硬姿勢に、森喜朗や古賀誠ら長老から批判が生じている。加えて執行部内からも幹事長・石原伸晃のように「首相は絶対解散の確約をしないと思う。『解散する』と言った段階で力を失う。『話し合い解散』はなく、あうんの呼吸しかない」と「あうんの解散」の言質でよいとする見方も生じている。谷垣は3日NHKで、自ら総裁選挙に出馬する意向を表明したが、ちょっとピントが狂っていないか。いまは小沢のように自分を前に押し出すときではない。危機に瀕した国家財政がまず優先されるべき時だ。このさいもったいぶらずに、さっさと野田との党首会談に応ずるべきであろう。
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